いま、僕の部屋から見える、聖亜の家は薄暗い。
 ぼんやりと灯りが灯っているのは、二階の聖亜の部屋だけだ。
 小学四年生のとき、聖亜の両親が離婚して、お母さんは聖亜を置いて家を出ていった。
 お父さんは仕事が忙しかったらしく、そのころからあの家はどんどん暗くなって。
 公園で、聖亜がバスケをすることもなくなった。
 そして僕が他の友達といると、聖亜がちょっかいを出してくるようになったのもそのころだ。

『ごめん、柚希。お前といると聖亜に目をつけられるから』
『聖亜、怒るとこえーもん』
『だからごめんな。もう柚希とは一緒に遊べない』

 そう言って、僕の周りの子たちは離れていった。
 どうして? 四年生になってはじめてできた、聖亜以外の友達だったのに。

『聖亜、どうしてみんなにひどいこと言うの? そういうのやめてよ』
『は? あいつらがウザいからウザいって言っただけだ。あんなやつらと遊ぶのやめろ』
『ウザいとか言っちゃだめだよ。みんな友達でしょ? みんなで仲良くしようよ』

 聖亜が顔を歪め、僕のことを突き飛ばした。

『うるせー! お前なんか友達じゃねぇ! クソユズ!』

 僕はびっくりした。
 聖亜はもともと口が悪かったけど、そんなこと言われたのははじめてだったから。
 そしてそれ以来、僕は聖亜が怖くなって、聖亜は僕に意地悪をするようになった。

 中学に入学すると、聖亜はバスケ部に入部した。
 もともと運動神経抜群でバスケが上手かった聖亜は、一年生からレギュラーになり、しばらく僕のことは忘れていたみたいだ。
 だけど同じ高校に進学すると、仲間とつるんで僕をいじめるようになった。
 中学のころ、あんなに夢中になっていたバスケを辞めてしまったから、たぶん暇になったんだろう。
 そしてそれは、日に日にひどくなっている。

「柚希ー! ちょっと来てー! お願いがあるのー」

 一階のキッチンから、母さんが叫んでいる。
 嫌な予感しかしなかったけど、僕は部屋の電気を消して、階段を下りた。