文化祭の出し物は基本自分たちの教室で行う。
 火を使う場合は家庭科室やイベント機材レンタルを利用できるが、優先権は三年生にある。となると、加熱調理はホットプレートくらいか。メニューの詳細はクラスのみんなと相談する必要がある。

「それより会場設営をどうするか」
「机を幾つか合わせてテーブル代わりにする?」
「だな。テーブルクロスでも掛けときゃそれっぽく見えるだろ」
「市販のクロスだと高いしサイズが合わないかも。布買って作ったほうが安く済むかもしれないね」
「誰かに役割振って任すか」

 放課後、教室に残って打ち合わせをする。土佐辺くんは前の席に後ろ向きに座り、僕の机を使ってノートに要点をメモしていく。綺麗な字だ。じっと手元を眺めていると、不意に土佐辺くんが顔を上げた。間近で目が合う。

「誰にやらせる?」
「男女何人かでチーム組んでもらおう」
「だな」

 ノートに目線を戻すのを装って目を逸らされた。普通に会話はするから嫌われてはいないと思うけど、毎回顔を逸らされると少し傷付く。複雑な気持ちで打ち合わせを続けていると、フッと土佐辺くんが笑った。

「やっぱ安麻田と組んで良かった。他の奴は絶対オレに丸投げするからな」
「僕、役に立ってる?」
「立ってるよ。すげえ助かってる」

 さっきまでのモヤモヤした気持ちが全部吹き飛ぶ。良かった、足手まといになってなくて。

「今日はもう帰るか。駅まで一緒に行こ」
「う、うん」

 僕も土佐辺くんも電車通学だ。文化祭の打ち合わせの帰りはいつも一緒に駅まで歩く。移動の間も話題は文化祭関連で、他のクラスの出し物や進捗を教えてくれる。

「土佐辺くんて何で色々知ってるの?」

 思い切って聞いてみた。

「全学年ほぼ全クラスに知り合いがいるんだよ。そいつらから情報流してもらってんの」
「なに繋がりの知り合い?」
「ナイショ」

 肝心なところは教えてもらえなかったけど、彼が情報通な理由が分かった気がした。

「来週からテスト週間だろ? テスト終わったら一気に作業に入れるよう話を詰めておこうな」
「う、うん。頑張る」
「テストを? 実行委員を?」
「どっちも」

 駅に着き、同じ電車に乗りこむ。夕方は乗客が多くて座れない。ドア近くの手すりに掴まると、土佐辺くんは近くの吊り革を掴み、他の乗客から庇うような位置に陣取ってくれた。

 最寄り駅に着く頃にはすっかり地平線の境が赤く染まっていた。九月も半ばになると日が暮れるのが早い。

「またな」
「うん、また明日」

 ここから先は土佐辺くんとは逆方向だ。笑顔で手を振り、駅近くの交差点で別れる。『組んで良かった』と言われて嬉しかった。実行委員なんてガラじゃないけど、土佐辺くんと一緒なら頑張れそう。薄暗い住宅街を一人で歩きながら、ニヤけそうになる口元を必死に手で隠した。