翌日の放課後、クラスの勉強会が始まった。図書館の二階にある会議室を借り、希望者が集まって来週の中間テストに向けて勉強をするのだ。初日の参加者は僕と土佐辺くんを含めて十名。檜葉さんが話を付けたから駿河くんも参加している。

「駿河くんと土佐辺くん、安麻田くんには講師代わりに来てもらったの。みんな分からないところがあれば質問してね」

 勉強会の発案者である檜葉さんの言葉に、参加者の一人が早速手を上げ「テスト範囲が分かりませーん!」と元気よく発言した。スポーツ推薦組に教えるのはまずそこからか、と講師役の三人は頭を抱えた。

「各教科の先生からプリントをもらってるから一度やってみて。つまづいたら分かる人に聞いてね」
「「はーい!」」

 檜葉さんが仕切る様子を眺めながら、僕は端の席を選んで座った。すると、土佐辺くんが隣に座り、顔を寄せて小声で話し掛けてきた。

「見ろよ、あれ」
「え?」

 土佐辺くんが顎で指すほうを見れば、駿河くんと笑顔で語らう檜葉さんの姿があった。「来てくれてありがとう」「助かるわ」と嬉しそうだ。

「要するに、勉強会は駿河と話す口実だな」
「そうだったんだね」

 檜葉さんがクラスメイトの成績を心配しているのは事実だが、百パーセント善意ではなく自分の都合もあったということだ。思惑があろうとなかろうと、テストを前に困っていたクラスメイトを助けている事実に変わりはない。勉強会の開催自体は良いことだと思う。

 思えば、先週中庭で僕が駿河くんと二人でいた時にも意味ありげな視線を向けられていた。あれは、僕が邪魔で駿河くんに話し掛けられなかったからだったのか。知らなかったとはいえ申し訳ないことをした。

「駿河、鈍いから気付いてないだろうな」
「僕も言われなかったら気付かなかったよ」
「ハハ、安麻田も相当鈍いもんな」

 声を上げて笑う土佐辺くんにみんなの注目が集まる。普段クールな彼とは印象が違うからだろうか。僕も文化祭の実行委員になってから知ったんだけど、土佐辺くんは意外と気さくなんだよね。物知りだし親切だし、話していると楽しい。