お風呂を出て、髪の毛を乾かしながらベッドに座る。明日の用意はもうすませたし、あとはお父さんが来るのを待つだけ。いつもより、心なしかポカポカしている。区役所のイベントでもらったバスソルトを入れてみたのが効いてるのかな?
「おまたせ! 茜、まだ起きてるかい? ちょっとお父さん、お皿割っちゃって遅くなっちゃったよ。ごめんごめん」
気持ちよく浴槽に潜ってるときに、キッチンからギャッチャン! っていう音とそれを上回るお父さんの大声が聞こえたから、お皿を割ったのは知ってるよ。
それをいわずに軽く笑うと、用意していたパソコンの画面を見せた。
「どれどれ……ちょっと貸してくれるかい?」
と椅子に座ってマウスに手を伸ばすのを横で見守る。するとお父さんは、件名を見るなりいきなりクリックするとメールを開いてしまった。
パソコンが壊れたらどうするつもりよ……。
開かれたメールには、こんなことが書かれていた。
『はじめまして、あたしの名前は朱里です。
あなたとお友だちになりたくて、思い切ってメールを出しました。
もしよければ、あたしのお友だちになってください。』
「しゅ、し、しししゅ…りりり?」
「多分、あかりって読むんだと思うよ。茜と友だちになりたいみたいだね」
「あかっ、あ…あかり……?」
あたしが画面をのぞきこむ横で、お父さんが英語だらけのページを開く。下へスクロールするとなにかをじっと読んでいる。それにしてもなんてあやしいメール。さも、あたしを知ってるみたいな文面で友だちになりたいだなんて……。
「だだ…だー、大、じょぶ……丈夫なの?」
不安そうにするあたしに、お父さんはにっこり笑いかけた。
「うん、ハローワールドの住人なら、きっと悪い人はいないよ。気になるんなら、返事を出してみなさい」
ハローワールドの住人?
「どっ…どおいうこ、こーこことっ?」
「大丈夫だよ、ちょっとパソコンが重いみたいだからまた見てあげるね。さあ、今日はもう寝る準備をしようか。来月、夏休みになったら、島根からおばあちゃんが来てくれるよ。お母さんのお墓参りをしたいんだって」
「で、でで…でも……?」
いつもはじっくり話を聞いてくれるお父さんが、なぜだか急に冷たく感じて心細くなる。話し方や態度がやさしいのはいつもと同じだけど、今知りたいのはおばあちゃんのことでもお墓参りのことでもない。
そもそも、ハローワールドってなに? 外国? それともなにかの慈善団体?
不満げなあたしに気づいたのか、お父さんは肩に手を置くとにっこり微笑んだ。
「ハローワールドのことが知りたいなら、彼女と友だちになってみることだね」
なにか知っている風だけど、それ以上はなにも話してくれない。こういうときはつまり自分で調べなさいってことだとわかっていた。
「あ、それからもうひとり、茜に会わせたい人がいるんだ。じつは昔、茜も会ったことがあるんだけど、まだ随分と小さかったから覚えてないはずだよ」
「……っあ、あわせせ、…ってあわせたいひ、ひと……?」
「うん」
お父さんはあたしの頭にポンと手を置き、
「夏休みを楽しみにしておいで」
と見たことのない笑顔でうれしそうにした。
「おまたせ! 茜、まだ起きてるかい? ちょっとお父さん、お皿割っちゃって遅くなっちゃったよ。ごめんごめん」
気持ちよく浴槽に潜ってるときに、キッチンからギャッチャン! っていう音とそれを上回るお父さんの大声が聞こえたから、お皿を割ったのは知ってるよ。
それをいわずに軽く笑うと、用意していたパソコンの画面を見せた。
「どれどれ……ちょっと貸してくれるかい?」
と椅子に座ってマウスに手を伸ばすのを横で見守る。するとお父さんは、件名を見るなりいきなりクリックするとメールを開いてしまった。
パソコンが壊れたらどうするつもりよ……。
開かれたメールには、こんなことが書かれていた。
『はじめまして、あたしの名前は朱里です。
あなたとお友だちになりたくて、思い切ってメールを出しました。
もしよければ、あたしのお友だちになってください。』
「しゅ、し、しししゅ…りりり?」
「多分、あかりって読むんだと思うよ。茜と友だちになりたいみたいだね」
「あかっ、あ…あかり……?」
あたしが画面をのぞきこむ横で、お父さんが英語だらけのページを開く。下へスクロールするとなにかをじっと読んでいる。それにしてもなんてあやしいメール。さも、あたしを知ってるみたいな文面で友だちになりたいだなんて……。
「だだ…だー、大、じょぶ……丈夫なの?」
不安そうにするあたしに、お父さんはにっこり笑いかけた。
「うん、ハローワールドの住人なら、きっと悪い人はいないよ。気になるんなら、返事を出してみなさい」
ハローワールドの住人?
「どっ…どおいうこ、こーこことっ?」
「大丈夫だよ、ちょっとパソコンが重いみたいだからまた見てあげるね。さあ、今日はもう寝る準備をしようか。来月、夏休みになったら、島根からおばあちゃんが来てくれるよ。お母さんのお墓参りをしたいんだって」
「で、でで…でも……?」
いつもはじっくり話を聞いてくれるお父さんが、なぜだか急に冷たく感じて心細くなる。話し方や態度がやさしいのはいつもと同じだけど、今知りたいのはおばあちゃんのことでもお墓参りのことでもない。
そもそも、ハローワールドってなに? 外国? それともなにかの慈善団体?
不満げなあたしに気づいたのか、お父さんは肩に手を置くとにっこり微笑んだ。
「ハローワールドのことが知りたいなら、彼女と友だちになってみることだね」
なにか知っている風だけど、それ以上はなにも話してくれない。こういうときはつまり自分で調べなさいってことだとわかっていた。
「あ、それからもうひとり、茜に会わせたい人がいるんだ。じつは昔、茜も会ったことがあるんだけど、まだ随分と小さかったから覚えてないはずだよ」
「……っあ、あわせせ、…ってあわせたいひ、ひと……?」
「うん」
お父さんはあたしの頭にポンと手を置き、
「夏休みを楽しみにしておいで」
と見たことのない笑顔でうれしそうにした。