ーーー 8月2日。余命8日。

5人は、のどかに足を運んでいた。いつもの担々麺を注文し、レンゲで一口目のスープを掬い上げた双葉は、それを口に運んでいく。

「うっまぁ! やっぱりうっまぁ!」

そしてそう新鮮に喜びを表情いっぱいに表現する。

ーーー 8月3日。余命7日。

ばぁばの店に来ていた5人は、ひとつのカゴに駄菓子を放り込んでいく。

「飲み物はどうする?」と太陽が双葉に問いかける。

「そんなの聞くまでもないっしょ! まずはこいつで完敗しないと始まらねぇぜ!!」

「だな!」

そうして双葉は、太陽の持つカゴに、人数分のゼリー炭酸を放り込んでいく。

ーーー 8月4日。余命6日。

「それでね。その彼女はこう言ったんです。あなたはもう死んだのよって。そしたらね、ドア越しの彼氏がこう言い返して来たんです。何を言ってるんだ!? 事故に遭ったのは俺じゃない、そいつらだ。そいつらが死んだんだ。その言葉を聞いた彼女は、恐る恐る振り返ると、さっきまで普通だった友人達の顔は、血まみれで、傷だらけで、運良く生きていたい私を妬むように、凄い形相で彼女を睨んでいたんですね〜。そう、実は、事故で亡くなったのは彼氏さんではなく、さっきまで普通に話していた、友人達の方だったというお話でした。ご清聴ありがとうございました」

「ぎゃーー! 怖っ! 怖すぎる!!」

基地内で行われていた、穂による怪談ショー。穂の迫真の話術に、双葉は春と抱き合って顔を青くしている。

「うん。やっぱり、穂は怪談師になれるかもね」

ホラー好きな類は、また違う視点から感想を述べる。

「本当に!? やった! 」

穂はその言葉に、双葉とは逆に頬を赤く染めて、無邪気な笑みを浮かべた。

ーーー 8月5日。余命5日。

部活動もあるため、解放されていた校内にやってきた一行は、屋上に寝転び青く広がる空を見上げていた。

「いやぁ~まさか、みのりんが本当にピッキングできるとは……」

「まぁね! こんくらいならお手のもんだよ!」

「もう。穂先輩。犯罪とか犯さないで下さいよ! あ! あれ見てください! 何かあの雲、ヨミみたいじゃないですか!?」

そう双葉がひとつの雲を指差す。

「おぉ~本当だな! あの高飛車な感じがまんまあいつだな。うぬはお主らとは違うぜよ〜ってな!」

太陽は完全に一致したヨミの形をした雲を笑い捨てる。

「悪かったのぅ。高飛車で。それに、そんなどこぞの土佐の輩の語尾はしておらん」

すると、いつの間にか太陽の頭上で、優雅に腰を落ち着かせているヨミが目を細めて太陽を見下ろしていた。

「ぬわぁ!! いつの間に!!」

太陽は、そんな突然のヨミの登場に情けない声を上げた。

ーーー 8月6日。余命4日。

公園のアスレチック。滑り台やジャングルジム、動物の形をしたバネ付きの乗り物、ターザンロープ、一通り遊び回った5人は、ブランコに腰を落ち着かせていた。

とはいっても、全部でブランコは4つのため、太陽と類は、近くのせせらぎに足を浸からせて、その様子を眺めていた。

「それにしても。おにぃって、何であんなにモテモテ何だろう?」

「はるるんにはわかってるでしょ?」

「え? まあ、基本優しいし、容姿もイケメンの部類かもだけど、ここだけの話、頻繁に1人で夜、泣いてるんだよ。そんな弱っちい部分も知ってるから……」

「ふーん。それではるるんも、もらい泣きしちゃってるんだ?」

「ち、違うよ!!」

「かっこいいよ」

そんな春と双葉の微笑ましい会話に、穂も割り込んでいく。

「類くんはかっこいいよ。私の目を肯定してくれた。私で居ていい意味をくれた。そんな事、あんなに簡単に言っちゃうんだもん。かっこいいよ」

「みのりん……。ねぇ。みのりん。はるるん。私が居なくなっても、ルイルイをよろしくね。妹として、そして、特別な人としてね!」

「双葉ちゃん! それって、どういう意味!? そ、そんな! わわわ……私に…にに!」

「あははっ! みのりん可愛い! 動揺し過ぎだよ! あははっ!」

そこで双葉と春の笑い声が重なり、穂は顔を真っ赤に染め上げている。

「なぁ、やっぱりガールズトークって、下の方も」

「うるさい。邪な事を考えるな」

会話の内容は聞き取れなくとも、その楽しそうな雰囲気を眺めていた類と太陽は、そんなボーイズトークを繰り広げていた。

ーーー8月7日。余命3日。

5人は自転車を漕いで、町を見下ろせる高台まで足を運んでいた。

「いやぁ~何度来ても爽快ですなぁ!」

双葉はそんな感嘆を上げている。

「あそこが学校でしょ! で! のどかがあって、ばぁばの店があって、公園があそこで、あの何処かに基地があるんだよね! 何か、私達の基地ってこう見ると、秘境みたいだよね?」

春が分かりやすく声を弾ませて、気持ちを高揚させている。

「確かにな。良く今日ここまで、見つかってこなかったよなぁ」

太陽も改めて浮かべた疑問を口にする。

「それはの。うぬが結界を張ってやってるおかげだ。まぁ、餞別ってやつだな。お主ら以外の人間には、感知できないようになっている」

「うえ! またかよ! 急に出てくるなよ! ビビるだろ!」

再び唐突なヨミの登場と、カミングアウトにより、2つの驚きを体をビクつかせて表現する太陽。

「へぇ~ヨミちゃんがやってくれてたんだ! ありがとうね! このこの! いい猫ちゃんだな〜」

双葉は、ヨミの頬をムニムニと撫でくりまわす。

「おにゅ。にゃめろ! にゅわるでない!」

ヨミはそれを不機嫌そうに受け止め、逃げようという素振りは見せることはなかった。

ーーー 8月8日。余命2日。

眠れずに、1人夜に取り残されていた類は、そっと外に繰り出して、行く当てなく公園へと歩みを進めていた。

入り口から坂を下り、芝生広場の付近まで辿った時だった、類は近くの屋根付きのベンチに腰掛ける人影に気がつく。

恐る恐る近寄ると、その人影ははっきりとした輪郭をなぞり、しっかりとした装いを見せる。

「双葉……?」

そしてその影の主が両親の顔の次に見慣れた人物だと知り、類はホッと胸を撫で下ろす。

「え? ルイルイ? どうしたのこんな時間に? って、私も人のこと言えないか」

「うん。何だかちょっと眠れなくてさ。何となくここに足を運んでいた」

「そうなんだね。うん。私もそんな感じだよ」

類は双葉の隣に腰を落ち着かせると、闇に広がった芝広場を眺める。

「ねぇ。ルイルイ。ルイルイは、よく夜に1人で泣いてるんだってね」

「は!? な、何の話!?」

「ふふっ。ごめんね。はるるんに聞いちゃったんだ」

「そう……なんだ。ったく春のやつ、余計なことを言いやがって」

「ねぇ。ルイルイ。変なこと聞いてもいい。答えなくていいから」

「え、う、うん」

その意味深な双葉の言葉に、困惑を外灯に照らされた表情に浮かべる。

「ルイルイはさ。私のこと……好き? その、幼馴染としてじゃなくて、友人としてじゃなくてね。異性として、恋をする相手として、私のこと……好き?」

その言葉が類の鼓膜に染み込むまで、そう時間は要しなかった。しかし、そのあるはずの答えは、顔を隠して、言葉として生まれてはこない。

「あ、え、えっと……」

言葉と言葉の間の時間を埋めるための言葉も、類の喉から飛び出す事もない。

「ごめんね! 急にこんな事聞かれても困るよね。馬鹿だよね私。最後の最後にルイルイを困らせようなんてするなんて。最後までこの気持ちは、持ったままでいようと思ってたのに、こうして2人になると、どうしても抑えきれなくなって。ごめんね……ごめんね……ごめ」

双葉がそう視線を爪先へ落とそうとした時だった。

類の指先が双葉の顎先へと伸びて、クイッと顔をあげさせられた双葉の唇に、類の唇が重なり合う。

その間、僅か3秒。ゆっくり離された2人の唇は少し震えている。

「ルイルイ……」

「これが、俺の答えだよ。双葉……。俺れは双葉の事が好きなんだ。ずっと言えずにいたけど、言わないまま、時を越えようとも思った。でも、この瞬間は、言わなきゃって思った。きっと、この土壇場で出した言葉が、本物なんだと思う。知ってほしかった。この気持ちを。もう、会えなくなってしまうとしても、伝えたいと思ったんだ………」

何とか絞り出した言葉の後、それに釣られるようにして、頬を伝う涙。

「ルイルイ……」

双葉はその涙を見ないように、自分の涙を見せぬように、類の背中に腕を回して、胸板に顔を押し付ける。

「ルイルイ。私も……好きだよ……大好きだよ……」

双葉の類を包む腕に更に力がこもる。それに応えるようにして類もまた、双葉の熱を自分の中に閉じ込めるように抱きしめ返す。

人っ子一人いない夜半の公園で、2人を見守るのは、高く空に浮かぶ、ボーリング玉のような丸い月と、物陰に潜みながら、その白い毛並みを夜の闇に溶け込ませている、一匹の白猫のみだった。