やばい!やばい!やばい!
アレだけは絶対にダメなのにぃー!!

私は史上最高に焦っていた。
日差しがジリジリと照りつける中、肩まである髪を振り乱しながら、全力で走っていた。
いつもは10分おきくらいに確認する前髪も、今は汗でおでこに張り付いて一体どんな姿になってるやら分かったものではない。
だけど、そんなこと言ってられない程、今私は焦っているのだ。

「あんなものが人目に触れたら私はっ」

鬼のような形相で息切れしながら、心の声がダダ漏れだった。

私、桜河(さくらがわ) 日菜(ひな)
高校1年生。一応、中学受験で中高一貫校に合格したから、高校受験はなくそのまま何もせず高校にあがった。だから随分のんびりした毎日を過ごしてきた。
高校受験から逃れたくて、中学受験したからそれまでは必死に頑張った甲斐あって、そこそこ頭はいいほうかな?ちなみに、顔もそこそこ可愛いかな?性格も、、うんきっといい方!!
表向きはね。

だけど!
あんなもんが人目に触れたら!
私の人生は終わる!!!

絶対あそこだよ、あの時バッグをぶちまけたんだもん、絶対にあそこにあるはず!



 今日、学校帰りにコンビニでフローズンドリンク飲みたいね、って話になって友達の風原(かざはら)莉愛(りあ)幸村(ゆきむら)(まい)の3人でコンビニに寄り道した。入学してすぐに席が近くになったことで仲良くなった舞と、舞と小学校が同じだったらしい
莉愛と仲良くなるのはそう時間はかからなかった。
小柄でよく笑い感情表現が豊かな小動物系の莉愛と、少し大人びて美意識の高い舞。2人とも私から見たら羨ましい部分がたくさんある。

今日の帰り道は9月だというのにとにかく暑くて、舞はちゃんと日傘をさして日焼け対策をしていたけれど、私と莉愛は無防備な状態で、焼け付くような日差しを頭から浴びていた。
とにかく、冷たいものを口にしたくて、私たちは倒れ込むようにコンビニに飛び込む。
私はチョコ、莉愛はいちご、舞は抹茶のフローズンドリンクをチョイスして、どうせなら静かな場所で飲みたいねと、近くの河原に行ったのだ。
その河原は帰り道からは少し離れているけれど、昔から私たちはよくこの場所に寄り道をする。程よく日陰もあり、季節がいい時には川からくる風が気持ちよくて、いつもダラダラと無駄話に話を咲かせているのだ。
ちょうど高架の下になって場所は大きく日陰になっていて、今日は運よく誰もいない。
私達は「暑い暑い」と言いながらそこに座り込み、フローズンドリンクを飲んだ。

その時、好きな人、っていうお決まりの話題になった。莉愛は昨年から付き合ってる彼氏がいるんだけど、私と舞は誰かいないの?と莉愛から始めた話だった。
正直、この手の話は苦手だった。
「いない」と言えば寂しいと言われ、名前をあげるといろいろ根掘り葉掘り聞かれる。

「いないこともないけどさ。。」

何となくふわっとした話で終わらせたくて、私は口ごもった。実際は特別気になってる人がいるわけではない。
こう言うとこ好きだなとか話して楽しいと思う奴はいても恋愛感情かと言われるとよく分からない。

「え?誰よ!?日菜の好きな人!」

当然のように莉愛が食いつく。
舞も隣で興味津々な顔で私を見ている。

「いや、好きな人っていうんじゃなくて、、まあいいかなーレベルでさ。まだ全然好きとかそんなんじゃ、、」

「日菜、頭いいし可愛いしいつもニコニコしてるし、絶対人気あると思うんだけどなー」


舞がそう言いながら胸まであるストレートの髪を、後ろでササッと一つに束ねた。学校では髪は絶対結ばない!ってのが舞のポリシーらしい。確かにこれでもかってくらいに、艶々でサラサラで真っ直ぐな舞の髪の毛は後ろから見るとシャンプーのCMにでてくる女優さんのようだった。正直、私の髪は少し癖毛で、舞の髪が羨ましい。

「そりゃ私は頭いいし?可愛いし?」

私はあえてそう言って胸を張り、モデルのようにポーズを取ってみせた。

「さっすが!」

莉愛と舞が同時にそう言って、笑いながら拍手をした。

「冗談だって!」

私は慌てて否定したけれど、「またまたぁ」と2人が私の脇腹をつついてきて、「やめろー」と私もふざけて2人をくすぐり、それがエスカレートして爆笑しながら3人でぐちゃぐちゃに戯れた。ふざけて、もみくちゃになりながら、話が逸れてよかった、と私は思っていた。
その時だった。

ガシャーッて言う音とともに、わたしのトートバッグが河原に滑り落ちたのだ。

「わー!ヤバー!!」

背丈の高い草が一面に覆い茂ってる河原は散らばった物たちを探すのに苦労した。
3人であちこちに散らばった文房具やノートやブラシ、なぜか入ってたキーホルダーなんかをかき集めてバッグの中に戻した。

「全部拾えた?」

莉愛の言葉にチラリとバッグを覗いて確認して、私は飲みかけの水のペットボトルがないことに気づく。

「あ、水がないかも?」

私が言うと少し離れた場所にいた舞が「これ?」とペットボトルを高く掲げてみせた。

「多分それー」

「もともと落ちてたゴミかと思ったよ」

舞はそう言いながら、ペットボトルを私に手渡した。

「サンキュ」

受け取りながら、確かにもうほとんど残ってないペットボトル。これが間違いなく自分のだっていう確信はないな、と思う。

「念のため、これはもう飲むのやめときます!」

私はペットボトル をバッグにしまい、敬礼のようなポーズをしてみせた。



そう!絶対あの時だよ!
あんな、ほとんど残ってないペットボトルなんか探してる場合じゃなかったよー!なんで、あれがないことに気づかなかったんだろ。てか、なんでトートバッグの方に入れちゃったんだろ。
今更後悔しても始まらない、とにかく早急に見つけて回収しないと、マジでヤバい!
どうか誰にも見つかってませんように。。

私は一度も止まる事なく、河原まで走り着いた。
息が切れて、喉がヒリヒリしたけどそんなこといってられない。まだあれから1時間もは経ってないはずだ。

さっきカバンをぶちまけたあたりを草をかき分けながら必死に探す。そんな小さいものじゃないから、すぐにわかるはずなのに、全然見つからない。
ヤバい、まじで誰かに拾われた?
慌てて辺りを見渡す。
犬を散歩しているおじいちゃん、ベビーカーを押してる若いママ、何か話し込んでるみたいなカップル。
グルリと見渡している私の目に、突然吸い込まれるように嫌なものが映った。
河原から少し上がった数段の石階段のような場所の一番上で、座って何かを読んでる風の学生。
手元に持っている本のようなもの。

待って。待って。待って。
それってあたしの、、

私は彼の近くに駆け寄ろうとして、思わず後ずさった。

絶対見たことある人だし、なんなら同級生だし!

彼の視界に入らない角度から、よく見える場所まで近づいてみると、彼は隣のクラスの石崎(いしざき) 瑛人(えいと)だった。
同じクラスになったこともないし、あまり喋ったこともないけど、どちらかというと物静かでおとなしそうなキャラ。でも、間違いなく同じ学校の同学年の男子だ。
そんな身近にいるやつにあれを見られるなんて、もう、、


「オワッタ、、」

とにかく返してもらわないと、、と近寄りかけて私は自分がものすごいひどい姿なことを思い出す。
慌てて、カバンからハンドタオルを取り出し顔と首の汗をぬぐい、ブラシで前髪を整え、鏡で確認する。
とにかく一旦落ち着こう。
スーハースーハーと数回大きく息をして、平静を装う。

私は偶然ここを通りました、みたいな雰囲気を装いながら、ゆっくりゆっくり彼の方へ近づいて行った。
「こ、こんにちは。暑いよね」

白々しく定番の挨拶をしながら、私は彼に近づいた。
彼はものすごく怪訝な顔をして私を見上げた。

「石崎くん、、だよね?」

多分間違ってないけど一応確認しておく。

「そうだけど、、誰だっけ?」

彼はますます不審な顔になって聞き返してきた。

「え、マジか」

まあそりゃあ、同じクラスになったことないし?
ほとんどしゃべったことないし?
だけど、友人を介して顔くらい見たことあるでしょうよ。モブキャラ扱いか?
あ、制服着てないから?
いやあなたも制服着てないけど、私わかりましたけど?

と、、まあ心の中ではいっぱいつっこんだけれど、
私は、気にしてない風ににっこり笑って見せる。

「あ、そうだよね。クラス違うしね、一応同級生。
2組の桜河 日菜。制服きてないから分からないかー」

わざとらしく、笑いながら私はそう言った。

「そうなんだ、ごめん」

彼は素直に謝り、また視線を下に落とした。

「いやっ、、あ、それっ」

私は思わず、「返して」と言いそうになって慌てて口を押さえた。
「返して」って言ったらだめじゃん、私のものって事になっちゃう。

「これ、、?」

瑛人はもっていたノートを指さして見せた。

「それは、、何かなーって」

私はそーっと、瑛人の隣に腰を下ろしてノートを覗き込む。

「んー、、なんて言うかいろんなドロドロとかヤバいことが詰まったノート、、的な?」

うん。。知ってる。。ドロドロってか、もはやヘドロだよね。。

内心焦りまくってる私をよそに、瑛人はパタンとノートを閉じてしっかりと両手でそのノートを抱えた。

「ふ、ふーん。。ドロドロかぁ、、え、それは石崎くんの?」

知らないふりをして。恐る恐る聞いてみると、瑛人は「まさか」と言って首を横に振った。

「誰かが落としたか、忘れたかなんだろうけど。なんか手がかりないかなと思ってパラパラッと見ただけだよ。」

とりあえず全部読んだんじゃないのか、しかも誰かのものかも分かってない。

私はほんの少し胸を撫で下ろす。

「でもさ」

「何っ?」

瑛人の言葉にビクッとする。

「これ、、うちの学校のノートだよね、ほら」

瑛人はそう言うと、地味でなんの飾りっけもない灰色のノートの表紙の下の方に結構なサイズ感で、金色で書かれたうちの学校名を指差す。

「ほ、、ほんとだー、、」

うん。知ってるよ。。

うちの学校は入学時と、1学期の初めに学校の名前入りのノートが5冊ずつ支給される。
もちろん勉強に使ってくださいね、という校長からのプレゼント的な代物だけれど、正直ダサ過ぎて数人の男子以外に実際使っているのは見たことがない。
 
「だから多分うちの生徒のだと思うんだよな」

瑛人はノートを裏表にくるくる回転させながら、どこかに手がかりないかと探している。

「まあ、、こんなノートに自分の名前は書かねーよな」

納得したように、彼はノートを膝の上に置いた。

「石崎くん、それどうするつもり?」

なんとかして回収したい。

「学校に届けて探してもらうか、、」

「だめっ!」

「なんで?」

「だって、中身ドロドロなんでしょ?本人絶対バレたくないよ!」

「まあ、、確かにな。」

瑛人はうーん、、と空を見上げて考え込んだ。

「このまま、そこらに置いとけば、ほらっ、落としたなら本人が探しに来るかもだし!」

このまま置いて帰ってくれれば、取り返すことができる。

「だってさ、本人来る前に誰に拾われるかわかんないぜ?現にオレが拾ったワケだし。ましてや、こんなの見つけましたー、みたいにSNSで拡散されてみー?学校名入ってるし、それこそ大変なことになりかねないぞ?」

そんなことになる前に本人がさっさと回収するから大丈夫です。とは口に出すことができない。

「ま、しばらくここで待ってみて、それから考えるか」

いやいやいやー、待たないでー、真面目かっ、優男かっ?それとも忠犬ハチ公かっ!?

「あ、じゃあ私が預かろっか?!男子に見られたってなったらその子恥ずかしいじゃん?!」

「なんでだよ。てかなんで中身見てないのに、このノート書いたの女子設定なんだよ。」

「あっっ、いや。さっきチラッと見た文字が女子っぽいかなーって。」

夕方とはいえまだまだ暑い。だけど私の背中はそれとは別の変な汗が大量に流れていた。

このノートには、私の本音がこれでもかってくらい書かれているのだ。学校では、頭良くて可愛くてポジティブでいつもニコニコしてて、、っていうキャラでやってるし、周りからもそう見られている。
だけど実際の私は、家じゃ頭もボサボサでジャージだし、勉強も必死にやらなきゃついてけない。
何よりポジティブでいつもニコニコとかありえない。
めちゃくちゃネガティブで頭の中マイナスワードしかないし、愚痴もイライラも溢れまくってる。
だけど、明るくて前向きなキャラじゃないと、莉愛や舞の側にいられない気がして、周りにも受け入れてもらえない気がして、ずっと気を張って、そのキャラを演じ続けてる。
そんな私のほんとの姿を吐き出すのが、このノート。
自分が表に吐き出せずに、心に仕舞い込んでいる思いを唯一出せる場所がこのノート。
どうせ使わないからと、学校のノートに書き始めたのがきっかけで実はもう5冊目だ。
中には、めちゃくちゃネガティブワードが書かれているし、学校であった嫌なこと、周りの人に腹が立ったこと、泣きたかったこと。とにかく、負の内容で埋め尽くされている。

「えっと、桜河さんだっけ?別にオレに付き合わなくていいよ。帰りなよ。」

瑛人はそういうと、ノートを自分のカバンの上に置いた。

そんなこと言ったってここで帰るわけには行かない。
ノートを取り返すまでは、諦めるわけにはいかないのだ。

「ううん、大丈夫。私も一緒に待つよ。持ち主が来るの」

私はそう言ってきちんと座り直して両手を両膝に置く。
瑛人は最初に見せた明らかに怪訝そうな顔を私にチラッと見せてから前を向いた。

「桜河さんてさあ、、。」

「あ、日菜!呼び方、日菜でいいよ」

私はニコッと笑ってみせる。

「んー、、日菜、、はさ。いっつもそんな感じ?」

「そんなって?」

ドキッとして聞き返す。

「テンション高めって言うか、、グイグイ来る感じっていうか、、」

「えっ、そ、そんなことないよ。まあ、明るいとはよく言われるけど」

瑛人の目が私を見透かしてるような気がして、私は思わず目を逸らす。

「ふーん」

瑛人は少し首を傾げるような仕草をした。

「石崎くんこそさ、、」

「オレも瑛人、でいいよ。」

「瑛人は、いつも静かな感じじゃん?いつもそんな感じ?」

直接話したことはないけれど、いつも目にうつる瑛人は騒いでる男子たちの横で黙って、少し冷めた目で周りをみているようなイメージが強かった。
そんな時、瑛人が醸し出す空気感は、今何考えてるんだろう、とちょっと気になってしまう。

「別に静かじゃないよ、オレも」

瑛人はその時と同じように少し冷めた目でそう答えた。

「ま。そうだよね。私たち話したことないし同じクラスにもなったことないし、お互いよくは知らないもんね」

ノートを拾ったのが瑛人で、まだよかったのかもしれない、と私は思った。口が軽そうでもないし、冷やかしそうなタイプでもない。実際ノートを全部読んでないっていうのも、瑛人らしい感じがした。

「じゃあ、、なんでよく知らないのに今日わざわざこんな場所でオレに話しかけてきたの?」

「ぅえっ、、とそれは、、」

確かに、そう言われたらそう。
何もなければ、絶対に話しかけてない。
そもそも瑛人に気づいたかさえ怪しい。
なんかいい答え、、なんか答えないと。。
額にジワッと汗をかく。
蝉の声がやけに耳について、何も思いつかない。


「えっと、瑛人が気になったから。」

「え?」

あ、いや、私今なんて言った?

エイトガキニナッタカラ?

これって告白みたいになった?!

「あ、いや、ちがっ、、」

また私の背中からは変な汗が大量に吹き出してくる。

「いや、その、気になったってのは違くてっ」

必死に訂正する私の顔を瑛人はただ黙って見ていたけれど、

「やっぱりな」

と頷いた。

「やっぱり?」

今度は私が真顔になる。

「さっきから、告白かなーと思ってた」

「は?え、どゆこと?」

瑛人は、こんな場所で急に話しかけてきて、帰れと言ってもいつまでも帰らないから、自分に告白するつもりで私が話しかけてきたのだと、最初の方から思っていた、と言うのだ。

「いや、ちがうからー!」

「違うんだ?」

瑛人は不思議そうな顔でそう聞き返し、
「だとしたら日菜の行動はマジでよくわからないわ」
と付け足した。
何だ?瑛人ってこんな自意識高めのタイプだったの?
そう思いながら、私は何とか誤解を解こうと説明する。

「だから、えっと瑛人が何かを一生懸命読んでたから何読んでるのか気になっただけで、、」

「ふーん」

あ、まただ。なにもかも見透かされてるような目。

「ねっ、そんなことより、どうすんの?いつまで待つの?もう暗くなるよ」

辺りは少しずつ日が暮れてきていた。
さっきまでうるさいくらい鳴いていた蝉の声も今はもうほとんど聞こえない。

「とりあえず今日はここまでにして、一晩考えるわ」

瑛人はそう言うと、ノートをカバンにしまい立ち上がった。

「え?持って帰るの?落とし物だよ?可哀想だよ」

持って帰ってじっくり読まれたら、私の中身が全部バレてしまう。

「じゃ、警察に届けるのか?中身あんななのに落とし物として届けたら全て読まれて、調書に全部詳しく書かれるんだぞ?それこそ可哀想じゃないかよ。ていうか、これを警察に私のですって取りに行けると思うか?」

「そ、それは、、」

そのノートが自分のだと言い出さない限り、阻止するのは難しいのかもしれない。だけど、私のだって絶対バレるわけにはいかない。だって、そこには今までずっとずっと隠し続けた私の本音が全て詰まっているのだから。

「それに、オレ気になるんだよ、これ書いた奴」

「そ、、そうだよね、気になるよね、どんな人なのか、、」

そりゃそうだよな、あんなこと書く人間、一体どんなクズだか気になるよねぇ。
私はノートが入れられた瑛人のカバンをじっと見つめたままつぶやくように言った。

「じゃ、、じゃあ私も一緒に持ち主探す!ね、いいでしょ?もし書いたのが女子なら、私も協力出来るかもだし。」

私がそう言うと、瑛人は今日何度目かっていうくらいの
怪訝な表情をした。

「まぁ、、いいけどさ、、」

しぶしぶというように瑛人は頷いた。
このままだと私がずっと着いてきそうで、気持ち悪がられてるようにも見えた。

「で、、さ?提案なんだけど、今日1日は私にそのノート預からせてくれない?」

「何でだよ」

「だって、中身見ないと探すにも探せないでしょ?」

とにかく、自分の手にノートを渡してもらわないと、と私は必死だった。

「まさか興味本位で中身見たいってだけじゃないだろうな」

瑛人はそう言いながら、ノートの入ったバッグを少し自分の後ろに隠すように腕を引いた。

「ち、違うって!私がそんな人間に見える?」

「見えなくもないよ」

「ひどっ!ちがうよ、そんなんじゃなくて純粋に、、」

私が必死に言いかけると、瑛人は「分かった」と言いながら私の手にあっさりとノートを手渡した。

「ありがと。。」

あまりにあっさりすぎて、私の声がうわずった。

「ただし。マジで興味本位とかで面白がって見るなよ。
これ書いたやつがどんな気持ちでこれ書いたかなんて、オレらには分からないんだからな」

そう言う瑛人の目は怖いくらい真剣で、分かってるよぉ、とかなんとか笑って言える空気ではなくて。
なんなら、少し恐怖を感じるほどだった。

「分かった」

小さな声でそう言うのがやっとの私に、瑛人はくるりと背を向けた。

「じゃ、また明日学校で。暗くなったから気をつけて帰れよ」

そう言い残すと、瑛人は側に停めていた自転車にまたがりあっという間にいなくなった。
気づくと辺りはすっかり暗くなり、街灯がぼんやりと石階段を照らしていた。
私は自分の手に返ってきたノートを爪が食い込むくらい握りしめて、その場にしばらく立ち尽くした。