最終選考の結果、今年のラヴィリンス選考会における合格者は、オレとアリスを含めた十一名だそうだ。最終選考に臨んだプレイヤーが二十名だったということは、つまりはペアが揃って最終選考を通過したのは、オレとアリス以外には存在しないことになる。
 なんだか、嬉しい反面、ちょっと恥ずかしいかもしれない。
「……その顔、気持ち悪いから止めて」
 横から釘を刺してくるのは、言わずもがなアリスだ。こいつはカードを使わずにオレの精神面を痛めつけるのがお得意のようだな。なんともはた迷惑な奴だ。
「これから、どうするつもりなんだ?」
「それはわたしの台詞。……トキ、貴方はどうするの?」
 質問に、同じ質問で返されてしまった。
 しかしまあ、それも仕方のないことだ。オレはこの世界のことを全く知らないし、心の底から信用できる奴なんてアリスしかいないからな。
 アリスがプロのラヴィリニストになれた今、オレはアリスと共にいなければならない理由を失ってしまった。これからどうすりゃいいのか本気で悩む必要がありそうだ。
「……い、行くところがないなら、わたしと一緒に……住んでも構わない」
「今なんつった!?」
 即、聞き返す。と同時に腹パンを二発頂戴致しました。……ぐふっ。
「二次選考での、お礼をしていなかったから。……それだけだから」
 他意はない、と念を押す。
 だが残念だったな、アリス。こんな時に男を誘う女は、男に惚れていると見て間違いないんだぜ? つまりあれだ、オレの勇姿をそばで見続けることによって、アリスの心は奪われてしまったというわけだ。ふ、ふふ……、十四年間生きてきて、ようやくオレにも彼女ができる時が訪れたようだ。煩悩の神様ありがとうふひひ。
「アリス、お前の気持ちをオレは全て受け止め――って、どこ行った?」
 腹を押さえて蹲っている間に、アリスの姿が消えていた。
 慌てて辺りを確認すると、ラヴィリンスの塔の外に出て行く後ろ姿を発見。
 頼むからオレを一人にしないでくれっ。
「……ちぃ、オレも厄介な女に惚れちまったもんだ」
 自身の想いに愚痴を吐き、オレはアリスの後を追いかけていく。
 そして、とある仮説を立ててみることにした。
「アリスッ!!」
 アリスの父は、ラヴィリンスの王との戦いを制し、願いを一つ叶えることができた。
 それにより、アリスの父は行方不明となり、アリスの前から姿を消してしまった。
「……遅い、バカ」
 その一方で、此処とは別の世界――地球において、世界的に有名なTCG(トレーディング・カード・ゲーム)となった《トキの迷宮》を創造し、作り上げることに成功した人物――創始者(ゲーム・マスター)は、地球には決して存在してはならない場違いな工芸品(オーパーツ)を持ち、更にはこの世界――《迷宮の王国(ザ・キングダム・オブ・ア・ラヴィリンス)》の存在を知っていた。
 つまりこれは、オレの推理がほぼ確定したと言っても過言ではないだろう。
「悪いな、アリス」
 アリスの父は、創始者(ゲーム・マスター)だ。
 ラヴィリンスの王に叶えてもらった願いというのは恐らく、此処とは別の世界を見てみたいと願ったのか、またはラヴィリンスの王に代わり《トキの迷宮》の創始者(ゲーム・マスター)になりたいと願ったのだろう。それが原因で、創始者(ゲーム・マスター)は地球へと時空を転移してやって来た。
 これが事実だとすれば、アリスが父を捜し出すのは相当に困難な道のりだ。オレも出来る限りの協力をしなければならないようだ。
 ……まあ、あくまで仮説だけどな。
「これから、家に帰るから」
 ぽつりと呟き、アリスは振り向く。
 次いで、もう一言、
「わたしと、貴方の」
 オレの家が、できた。
 この世界において、オレは帰る場所ができたんだ。
「……ああ、帰ろう」
 ただそれが嬉しくて、オレは口元がにやけるのを隠すことができない。
「やっぱり、変態にしか見えない笑い方ね……」
「一言余計だバカ野郎」
「貴方もね、トキ?」
 柔らかな笑みを咲かせ、アリスはリストを開いた。
 その微笑みが、悪戯な心を持っていることに、オレは一目で気が付いた。

 どうかどうか、お願いします、アリス様。
 もう二度と《魔法のじゅうたん》だけは使わないでください――…。