これが、レミーゼの屋敷……通称、拷問屋敷か……。
公爵令嬢が父に頼んで特別に造らせた自分専用の屋敷なので、もっと大きなものを勝手に想像していたけど、実物を目にするとそんなことはなく。
レミーゼ一人が快適に過ごせる程度といったところかな。
「さあ、中に入って」
言われて従う。
レミーゼの【隷属】で奴隷化しているというのに、この高揚感はなんだろうか。
……ああ、アレか。
廃墟化する前の拷問屋敷に入るのは【ラビリンス】でも叶わない夢だったので、感動しているのかもしれない。
ダメだな、笑ってしまう。
こんな状況にもかかわらず、やっぱりあたしは根っからの【ラビリンス】のプレイヤーだ。
でも、浮かれ気分でいられるのも今だけだ。
この屋敷の中には、アレがある。あたしは今からそこに連れて行かれる……。
一方、テイリーはついて来ないみたいだ。邪魔者が入らないように、屋敷の外で待機するのが彼の仕事なのだろう。
残念……非常に残念だ。いや、むしろ見られずに済むからよかったのかも?
「どう? これがあたしの隠れ家よ。素敵な屋敷でしょう?」
「はい。物語の世界に出てきそうな空間ですね」
「……ふふっ、貴女って面白いことを言うのね」
あたしは今、嘘を吐くことができない。だからこの台詞は、あたしの本心から出たものだ。
それがお気に召したのだろう。レミーゼは嬉しそうに笑っている。
これで裏表がなければ、本物の聖女にだってなれたはずなのに、とは口にしない。
「ここが居間で、あっちの部屋が書斎でしょう。その横は、お客様用の部屋になっているの。それでね、更に奥の部屋があたしの寝室よ」
レミーゼは屋敷内を丁寧に案内してくれた。それはまるで友達を家に招待して喜ぶ子供のように……。
でも現実のあたしには友達なんていないし、むしろ絞首台を一段ずつ上がる時間のように感じた。そして、
「……あと一つ、とても大切な場所を紹介するわね」
いよいよそのときが訪れたのだろう。
レミーゼが屋敷の一番奥端の扉の前で立ち止まり、優しく耳元で囁く。
「この扉の向こうにはね、貴女のお部屋があるの」
「あたしの部屋……」
客室があるのに、それとは別にあたしの部屋がある。レミーゼはそう言った。
あたしはレミーゼにとって客人ではないし、招待されたわけではない。【隷属】によって主従関係にあるのだから当然だ。
ふふふと笑いながらも、レミーゼが扉を開ける。
すると、すぐに下り階段が見えた。どうやら扉の先は地下室になっているらしい。
というか、知っている。
実際に見たわけではないけど、あたしは【ラビリンス】のメインシナリオからサブシナリオまで、全てをクリアしている。だからここが地下室になっていることを知っているし、この先に何が待っているのかも……。
「さあ、お先にどうぞ」
「失礼します」
嫌だ、行きたくない。
でもあたしに拒否権はない。
扉を開けた瞬間から、既に異臭が鼻をついている。澱んだ空気が漂い始めている。
扉を閉めることで誤魔化しているのかもしれないけど、ちゃんと掃除はしているのだろうか。
あたしを先頭に、階段を一つずつゆっくりと下りていく。
地下室に着いたけど、当然窓も何もないので真っ暗だ。
「――【点光】」
とここで、レミーゼが光魔法を発動する。
杖の先が光り輝き、部屋全体を照らし出す。そして、見た。
「……っ」
地下室に並べられた拷問器具の数々を……。
床にこびり付いて取れることのない血痕を……。
つい最近まで、そこに何かが倒れていたであろう黒ずんだ染みを……。
今にも鼻がもげてしまいそうになるほどの悪臭が、刺激となって目を攻撃してくる。
ダメだ、これ以上ここに居たら意識を失いそうだ。早く逃げなければ……!
「うふ、っふふふ、くふふふふっ」
しかし逃げ場はない。
背後から聞こえてくるのは、この屋敷の持ち主の含み笑いだ。
「それじゃあ、改めて言うわね?」
あたしの横を通って振り返り、レミーゼは気持ちよさそうに深呼吸する。
「よーこそっ、わたくしの拷問部屋へ!」
公爵令嬢レミーゼ・ローテルハルク。
彼女は、それはもう満足そうに嗤っていた……。
公爵令嬢が父に頼んで特別に造らせた自分専用の屋敷なので、もっと大きなものを勝手に想像していたけど、実物を目にするとそんなことはなく。
レミーゼ一人が快適に過ごせる程度といったところかな。
「さあ、中に入って」
言われて従う。
レミーゼの【隷属】で奴隷化しているというのに、この高揚感はなんだろうか。
……ああ、アレか。
廃墟化する前の拷問屋敷に入るのは【ラビリンス】でも叶わない夢だったので、感動しているのかもしれない。
ダメだな、笑ってしまう。
こんな状況にもかかわらず、やっぱりあたしは根っからの【ラビリンス】のプレイヤーだ。
でも、浮かれ気分でいられるのも今だけだ。
この屋敷の中には、アレがある。あたしは今からそこに連れて行かれる……。
一方、テイリーはついて来ないみたいだ。邪魔者が入らないように、屋敷の外で待機するのが彼の仕事なのだろう。
残念……非常に残念だ。いや、むしろ見られずに済むからよかったのかも?
「どう? これがあたしの隠れ家よ。素敵な屋敷でしょう?」
「はい。物語の世界に出てきそうな空間ですね」
「……ふふっ、貴女って面白いことを言うのね」
あたしは今、嘘を吐くことができない。だからこの台詞は、あたしの本心から出たものだ。
それがお気に召したのだろう。レミーゼは嬉しそうに笑っている。
これで裏表がなければ、本物の聖女にだってなれたはずなのに、とは口にしない。
「ここが居間で、あっちの部屋が書斎でしょう。その横は、お客様用の部屋になっているの。それでね、更に奥の部屋があたしの寝室よ」
レミーゼは屋敷内を丁寧に案内してくれた。それはまるで友達を家に招待して喜ぶ子供のように……。
でも現実のあたしには友達なんていないし、むしろ絞首台を一段ずつ上がる時間のように感じた。そして、
「……あと一つ、とても大切な場所を紹介するわね」
いよいよそのときが訪れたのだろう。
レミーゼが屋敷の一番奥端の扉の前で立ち止まり、優しく耳元で囁く。
「この扉の向こうにはね、貴女のお部屋があるの」
「あたしの部屋……」
客室があるのに、それとは別にあたしの部屋がある。レミーゼはそう言った。
あたしはレミーゼにとって客人ではないし、招待されたわけではない。【隷属】によって主従関係にあるのだから当然だ。
ふふふと笑いながらも、レミーゼが扉を開ける。
すると、すぐに下り階段が見えた。どうやら扉の先は地下室になっているらしい。
というか、知っている。
実際に見たわけではないけど、あたしは【ラビリンス】のメインシナリオからサブシナリオまで、全てをクリアしている。だからここが地下室になっていることを知っているし、この先に何が待っているのかも……。
「さあ、お先にどうぞ」
「失礼します」
嫌だ、行きたくない。
でもあたしに拒否権はない。
扉を開けた瞬間から、既に異臭が鼻をついている。澱んだ空気が漂い始めている。
扉を閉めることで誤魔化しているのかもしれないけど、ちゃんと掃除はしているのだろうか。
あたしを先頭に、階段を一つずつゆっくりと下りていく。
地下室に着いたけど、当然窓も何もないので真っ暗だ。
「――【点光】」
とここで、レミーゼが光魔法を発動する。
杖の先が光り輝き、部屋全体を照らし出す。そして、見た。
「……っ」
地下室に並べられた拷問器具の数々を……。
床にこびり付いて取れることのない血痕を……。
つい最近まで、そこに何かが倒れていたであろう黒ずんだ染みを……。
今にも鼻がもげてしまいそうになるほどの悪臭が、刺激となって目を攻撃してくる。
ダメだ、これ以上ここに居たら意識を失いそうだ。早く逃げなければ……!
「うふ、っふふふ、くふふふふっ」
しかし逃げ場はない。
背後から聞こえてくるのは、この屋敷の持ち主の含み笑いだ。
「それじゃあ、改めて言うわね?」
あたしの横を通って振り返り、レミーゼは気持ちよさそうに深呼吸する。
「よーこそっ、わたくしの拷問部屋へ!」
公爵令嬢レミーゼ・ローテルハルク。
彼女は、それはもう満足そうに嗤っていた……。