それは、夢ではない。
 けれども現実に起こった出来事だ。

 ある日、とある大学にある【迷宮研究所】という名のサークルで、部員同士による殺傷事件が起きた。
 その事件はニュースでも大きく取り上げられ、世間を大いに騒がせた。

 大勢いた部員の中で、生き残ったのは、ただ一人。
 倉野崎彫人。迷宮研究所の部長を務めていた人物だ。

 病院で目が覚めた倉野崎は、居場所を嗅ぎ付けたマスコミから、唯一の生き証人としてインタビューされることになった。

 その最中、倉野崎は……壊れた。

『あははははっ、そりゃ狂いもするし、殺しもするさ! だって【彼】にとって僕はもう用済みみたいだし、必要な人たちはとっくに【ラビリンス】の世界に閉じ込めてしまったんだからね!』

 訳の分からないことを口走り、かと思えば何もない天井をじっと見つめる。
 それから暫くすると、おもむろに病院のベッドから立ち上がり、ナースステーションまで歩いていく。

 そして一言、

「もう、無理だよ」

 ハサミを奪い取り、自分の喉を掻っ切る。
 それは、絶望した人間の顔をしていた……。