――【神隠し】。
それは【ラビリンス】におけるあたしの二つ名だ。
専用掲示板でそう呼ばれるようになってから暫く、気付いたときには称号にもなっていた。掲示板を見た【ラビリンス】の運営による悪ふざけだと思っている。
そして、あたしが持つ称号は、もう一つ。
――【迷宮王】。
それは【ラビリンス】で年間ランキング一位を獲得したプレイヤーにのみ与えられる称号だ。この称号を得た者は、過去に六人しかいない。そのうちの一人が、あたしだ。
「貴様が【神隠し】ということは、その姿は固有魔法で成り済ましたものなのか……? もしそれが事実だとすれば……つまり、貴様が【ラビリンス】の頂点……【迷宮王】……!?」
「よくできました」
バレた。
サイダールにも、そしてフレアにも。
「……しかし解せない。【迷宮王】……いや、【神隠し】よ、貴様がレミーゼに成り済ましているならば、本物のレミーゼはどこに……」
一瞬、思考が止まる。しかしすぐにピンときたようだ。
サイダールは目を見開き、あたしを見る。
「あぁ、……貴様、殺したな?」
「あんたが知る必要ないから」
「く、くくくっ、クハハハハッ! 隠しても無駄だ! 貴様は神出鬼没であると同時に冷酷無慈悲なプレイヤーでもあったはずだ! 故に! 今頃本物のレミーゼは、貴様の手によって神隠しに遭い……殺されたのだろう?」
まるで水を得た魚のようにウキウキしている。
しかしここまで推理されてしまうと、たとえここでサイダールを倒したとしても、隠し通すことはできそうにない。だって、フレアが全部聞いているし……。
まあ、サイダールの身柄を拘束したあとは、ローテルハルク領を去る予定だったし、別に問題はない。全ては予定の範囲内に収まっている……はずなんだけどね。
サイダールから目を離し、あたしはフレアを見る。
「レミーゼ様……」
すると名前を呼ばれた。
けど、あたしの名前がそれじゃないことは理解しているはずだ。
それなのにまだ、その名前で呼んでくれるんだね。
「……ごめんね、フレア。あたしさ……レミーゼじゃないんだ」
あっさりと、あたしは真実を口にする。
今更誤魔化す必要はない。フレアには正直に言うべきだと思った。
唯一、残念に思うのは、この世界で初めてできた友達に……いや、親友になってくれたフレアに、嫌われてしまうことだろうか……。でも、
「――ええ、知っています」
フレアはそう答えると、優しく微笑んだ。
「わたし、こう見えても王国に認められた聖女なんですよ? ですから、レミーゼ様が……本当は、別の誰かであるということに、初めから気付いていました」
……知っていた。
それなのに、気付かない振りをしていた……?
いや、そうじゃない。
気付かない振りをしていたんじゃなくて、レミーゼに成り済ますあたし自身を、フレアは受け入れてくれていたんだ……。
「レミーゼ様……ここでは、敢えてそう呼ばせていただきます」
床に倒れて、縛られている。
けれどもフレアは、力強い言葉をあたしにぶつけて、己の想いを全力で伝える。
「わたしは貴女の親友です! 今も……そしてこれから先も、ずっと……!!」
その言葉を聞いた瞬間、あたしは嘘で塗り固めて作られた仮面が外れるのを、確かに感じた。
「あんたってさ、本当に……真っ直ぐすぎて世間知らずな子よね」
「はい」
「そんなんだから、サイダールに利用されるのよ」
「はい」
「でも、そんなあんただから……あたしは仲良くなりたいって思ったのかもね」
目の前の敵を片付けたら、フレアに全てを話そう。
そしてあたし自身を見てもらうんだ。
「【迷宮王】よ、辞世の句は詠み上げなくともいいのか?」
「バカなこと言ってんじゃないよ」
首の骨を鳴らす。
ゆっくりと呼吸し、あたしはサイダールと目を合わせた。
そして、言う。
「かかってきなさい。このあたしが、特別に相手してあげるから」
それは【ラビリンス】におけるあたしの二つ名だ。
専用掲示板でそう呼ばれるようになってから暫く、気付いたときには称号にもなっていた。掲示板を見た【ラビリンス】の運営による悪ふざけだと思っている。
そして、あたしが持つ称号は、もう一つ。
――【迷宮王】。
それは【ラビリンス】で年間ランキング一位を獲得したプレイヤーにのみ与えられる称号だ。この称号を得た者は、過去に六人しかいない。そのうちの一人が、あたしだ。
「貴様が【神隠し】ということは、その姿は固有魔法で成り済ましたものなのか……? もしそれが事実だとすれば……つまり、貴様が【ラビリンス】の頂点……【迷宮王】……!?」
「よくできました」
バレた。
サイダールにも、そしてフレアにも。
「……しかし解せない。【迷宮王】……いや、【神隠し】よ、貴様がレミーゼに成り済ましているならば、本物のレミーゼはどこに……」
一瞬、思考が止まる。しかしすぐにピンときたようだ。
サイダールは目を見開き、あたしを見る。
「あぁ、……貴様、殺したな?」
「あんたが知る必要ないから」
「く、くくくっ、クハハハハッ! 隠しても無駄だ! 貴様は神出鬼没であると同時に冷酷無慈悲なプレイヤーでもあったはずだ! 故に! 今頃本物のレミーゼは、貴様の手によって神隠しに遭い……殺されたのだろう?」
まるで水を得た魚のようにウキウキしている。
しかしここまで推理されてしまうと、たとえここでサイダールを倒したとしても、隠し通すことはできそうにない。だって、フレアが全部聞いているし……。
まあ、サイダールの身柄を拘束したあとは、ローテルハルク領を去る予定だったし、別に問題はない。全ては予定の範囲内に収まっている……はずなんだけどね。
サイダールから目を離し、あたしはフレアを見る。
「レミーゼ様……」
すると名前を呼ばれた。
けど、あたしの名前がそれじゃないことは理解しているはずだ。
それなのにまだ、その名前で呼んでくれるんだね。
「……ごめんね、フレア。あたしさ……レミーゼじゃないんだ」
あっさりと、あたしは真実を口にする。
今更誤魔化す必要はない。フレアには正直に言うべきだと思った。
唯一、残念に思うのは、この世界で初めてできた友達に……いや、親友になってくれたフレアに、嫌われてしまうことだろうか……。でも、
「――ええ、知っています」
フレアはそう答えると、優しく微笑んだ。
「わたし、こう見えても王国に認められた聖女なんですよ? ですから、レミーゼ様が……本当は、別の誰かであるということに、初めから気付いていました」
……知っていた。
それなのに、気付かない振りをしていた……?
いや、そうじゃない。
気付かない振りをしていたんじゃなくて、レミーゼに成り済ますあたし自身を、フレアは受け入れてくれていたんだ……。
「レミーゼ様……ここでは、敢えてそう呼ばせていただきます」
床に倒れて、縛られている。
けれどもフレアは、力強い言葉をあたしにぶつけて、己の想いを全力で伝える。
「わたしは貴女の親友です! 今も……そしてこれから先も、ずっと……!!」
その言葉を聞いた瞬間、あたしは嘘で塗り固めて作られた仮面が外れるのを、確かに感じた。
「あんたってさ、本当に……真っ直ぐすぎて世間知らずな子よね」
「はい」
「そんなんだから、サイダールに利用されるのよ」
「はい」
「でも、そんなあんただから……あたしは仲良くなりたいって思ったのかもね」
目の前の敵を片付けたら、フレアに全てを話そう。
そしてあたし自身を見てもらうんだ。
「【迷宮王】よ、辞世の句は詠み上げなくともいいのか?」
「バカなこと言ってんじゃないよ」
首の骨を鳴らす。
ゆっくりと呼吸し、あたしはサイダールと目を合わせた。
そして、言う。
「かかってきなさい。このあたしが、特別に相手してあげるから」