「貴様と顔を合わせたときから、何かがおかしいとは思っていたのだ……」
床に転がるフレアには目も向けず、サイダールはまるで独り言のように声を漏らす。
「あの拷問令嬢レミーゼ・ローテルハルクが何故、聖女たるフレアに嫉妬しないのか……そして何故、【ラビリンス】のシナリオ通りに話が進まないのか……」
一歩、また一歩。
サイダールはフレアを跨いで屋敷の中へと入ってくる。
「だが、こう考えれば納得がいく……貴様が【ラビリンス】のプレイヤーであれば……違うか? いや、聞かずともいい。俺様には全て分かっているぞ」
【ラビリンス】の世界ではあり得ないことが、この世界では何度も起きた。
そして気付いた。その主となる原因が、あたしだと……。
「改めて、まずは挨拶と洒落込もうではないか」
【ラビリンス】の世界ではNPCだったはずのレミーゼを、サイダールは自分と同じプレイヤーであると、確信を得たのだろう。
「俺様の名はサイダール。ご覧の通りダークエルフの元βテスターだ」
「βテスター……」
まさかとは思っていたけど、サイダールはただの元プレイヤーではなかった。
あたしと同じβテスターだった。
「ふん、間抜けな顔をしているな? 無知な貴様には馴染みの無いことだろうから俺様が教えてやる。【ラビリンス】におけるβテスターとは、固有魔法を持つことを許された選ばれしプレイヤーのことを指すのだ」
……ん?
「この俺様は【ラビリンス】の運営からβ版のテスターに選ばれた。つまり貴様のような一般人とは訳が違う。分かるか? 俺様と貴様とでは、比べるのもおこがましいということだ」
……んー。
「【ラビリンス】の世界での俺様は、全てのプレイヤーから恐れられていた……そう、その二つ名は【無言の齋田】……貴様も一度は耳にしたことがあるだろう?」
なんて言うか、この人……痛い?
っていうか、苗字を言っちゃってるけど大丈夫?
しかもその二つ名めちゃくちゃダサいんですけど……。
真面目に語っているところ悪いんだけど、笑いを堪えるのに必死だ。
「俺様の固有魔法【無言】を使えば、プレイヤー一人を対象に、一定時間、言葉を話すことができなくなる。これはβテスターであるこの俺様にだけ与えられた特別な魔法なのだ。貴様がどれほど欲しようとも手にすることはできない。無論、この世界でも使えるのは俺様ただ一人だ」
なるほど、【無言】か。確かにこれを使われたら魔法の名前を口にすることができないから、厄介かもしれない。
でも、バラしていいの?
聞いてもいないのに自分のネタをペラペラと説明しているけど、自信過剰な性格なのかな? それとも単にバカなのか……。
「この固有魔法を上手く使うことで、俺様は【ラビリンス】の世界でランキング一位になったこともある。……くくっ、驚いたか? ランキング一位だぞ? 貴様がどれほどのプレイヤーだったのかは知る由もないが、まあ恐らくはただの一プレイヤーに過ぎないだろう」
鼻で笑い、あたしを見下してくる。
いやはや随分と鼻につく野郎ですこと。
だからついつい、あたしはムッとして挑発に乗ってしまった。
つまり、口を滑らせた。
「ふーん、ランキング一位ねえ……で? それって、何日続いたの?」
「……は?」
「ランキングよ。あんた、一位になったんでしょ? だからそれさ、何日間続いたのかって聞いてんのよ」
質問の趣旨を理解したのか、サイダールは誇らしげな表情を浮かべながら返事をする。
「三日だ」
「……ぷっ」
そして、あたしは我慢できずに声が漏れた。
「み、三日? あんた……三日天下で終わっちゃったの? ……ふふっ、それでランキング一位ですよと威張られても……く、くふっ、ごめんね、笑いが止まらないわ」
ダメだ、限界。
こんなことはしたくないけど、もう無理。
あたしはサイダールを煽ってしまった。
反省はしている。
でも、我慢できないものは仕方あるまい。
すると、サイダールが顔を真っ赤にしてあたしを睨み付けてきた。
「貴様……! そこまで言うのなら、貴様も一位になったことがあるのだろうな?」
「まあ、……ね」
「ふん! ならば言ってみろ! 大方種族間ランキングで一瞬だけ一位になったとか、その程度の話だろう! だが俺様は正真正銘、全プレイヤー対象のランキングで一位を――」
「年間一位ですけど、何か?」
「……は?」
あたしの台詞を耳にして、今度こそサイダールの口が止まった。
床に転がるフレアには目も向けず、サイダールはまるで独り言のように声を漏らす。
「あの拷問令嬢レミーゼ・ローテルハルクが何故、聖女たるフレアに嫉妬しないのか……そして何故、【ラビリンス】のシナリオ通りに話が進まないのか……」
一歩、また一歩。
サイダールはフレアを跨いで屋敷の中へと入ってくる。
「だが、こう考えれば納得がいく……貴様が【ラビリンス】のプレイヤーであれば……違うか? いや、聞かずともいい。俺様には全て分かっているぞ」
【ラビリンス】の世界ではあり得ないことが、この世界では何度も起きた。
そして気付いた。その主となる原因が、あたしだと……。
「改めて、まずは挨拶と洒落込もうではないか」
【ラビリンス】の世界ではNPCだったはずのレミーゼを、サイダールは自分と同じプレイヤーであると、確信を得たのだろう。
「俺様の名はサイダール。ご覧の通りダークエルフの元βテスターだ」
「βテスター……」
まさかとは思っていたけど、サイダールはただの元プレイヤーではなかった。
あたしと同じβテスターだった。
「ふん、間抜けな顔をしているな? 無知な貴様には馴染みの無いことだろうから俺様が教えてやる。【ラビリンス】におけるβテスターとは、固有魔法を持つことを許された選ばれしプレイヤーのことを指すのだ」
……ん?
「この俺様は【ラビリンス】の運営からβ版のテスターに選ばれた。つまり貴様のような一般人とは訳が違う。分かるか? 俺様と貴様とでは、比べるのもおこがましいということだ」
……んー。
「【ラビリンス】の世界での俺様は、全てのプレイヤーから恐れられていた……そう、その二つ名は【無言の齋田】……貴様も一度は耳にしたことがあるだろう?」
なんて言うか、この人……痛い?
っていうか、苗字を言っちゃってるけど大丈夫?
しかもその二つ名めちゃくちゃダサいんですけど……。
真面目に語っているところ悪いんだけど、笑いを堪えるのに必死だ。
「俺様の固有魔法【無言】を使えば、プレイヤー一人を対象に、一定時間、言葉を話すことができなくなる。これはβテスターであるこの俺様にだけ与えられた特別な魔法なのだ。貴様がどれほど欲しようとも手にすることはできない。無論、この世界でも使えるのは俺様ただ一人だ」
なるほど、【無言】か。確かにこれを使われたら魔法の名前を口にすることができないから、厄介かもしれない。
でも、バラしていいの?
聞いてもいないのに自分のネタをペラペラと説明しているけど、自信過剰な性格なのかな? それとも単にバカなのか……。
「この固有魔法を上手く使うことで、俺様は【ラビリンス】の世界でランキング一位になったこともある。……くくっ、驚いたか? ランキング一位だぞ? 貴様がどれほどのプレイヤーだったのかは知る由もないが、まあ恐らくはただの一プレイヤーに過ぎないだろう」
鼻で笑い、あたしを見下してくる。
いやはや随分と鼻につく野郎ですこと。
だからついつい、あたしはムッとして挑発に乗ってしまった。
つまり、口を滑らせた。
「ふーん、ランキング一位ねえ……で? それって、何日続いたの?」
「……は?」
「ランキングよ。あんた、一位になったんでしょ? だからそれさ、何日間続いたのかって聞いてんのよ」
質問の趣旨を理解したのか、サイダールは誇らしげな表情を浮かべながら返事をする。
「三日だ」
「……ぷっ」
そして、あたしは我慢できずに声が漏れた。
「み、三日? あんた……三日天下で終わっちゃったの? ……ふふっ、それでランキング一位ですよと威張られても……く、くふっ、ごめんね、笑いが止まらないわ」
ダメだ、限界。
こんなことはしたくないけど、もう無理。
あたしはサイダールを煽ってしまった。
反省はしている。
でも、我慢できないものは仕方あるまい。
すると、サイダールが顔を真っ赤にしてあたしを睨み付けてきた。
「貴様……! そこまで言うのなら、貴様も一位になったことがあるのだろうな?」
「まあ、……ね」
「ふん! ならば言ってみろ! 大方種族間ランキングで一瞬だけ一位になったとか、その程度の話だろう! だが俺様は正真正銘、全プレイヤー対象のランキングで一位を――」
「年間一位ですけど、何か?」
「……は?」
あたしの台詞を耳にして、今度こそサイダールの口が止まった。