ざわつきが消えた。
一瞬で、辺りを静寂が支配する。
随分と偉そうな物言いだけど、これでいい。
レミーゼにはお似合いの台詞と言えるだろう。
「――【伝達/指定:王都・王国軍】【打消/永続/対象:解除】」
杖を振らずに、二つの魔法を発動する。
それは、遠くに情報を伝えることのできる伝達魔法と、妨害対策の打消魔法だ。
「あたしの名はレミーゼ。アルバータ・ローテルハルク公爵の一人娘です」
まずは伝達魔法。
この魔法の効果により、あたしの姿と言葉が、指定した場所に届くことになる。
ここに居るローテルハルク領の民たちには直接、そして王都に居る人たちや、サイダール率いる二千の王国兵にも……。
「今、父が行方知らずとなっておりますので、このあたしがローテルハルク領を代表して思いを言葉にしたいと思います」
この台詞には、王都の民たちも驚いたことだろう。ローテルハルクの領主が居なくなったのだから当然だ。
しかし慌てることはない。
ここにはあたしが居る。ローテルハルク領にはレミーゼが居る。
「ですから、少しだけ……少しの間だけで構いませんので、どうかあたしの声に耳を傾けてください」
伝達魔法は、こちら側の情報を伝えるだけでなく、相手側の情報を得ることもできる。
現代で言い表すならば、テレビ電話に似ているだろうか。
そして打消魔法。
伝達魔法と共にあらかじめ発動しておくことで、対象の魔法を一度だけ打ち消すことができる。
あたしに演説させると都合が悪くなる人もいるだろうからね。
まあ、主にサイダール対策なんだけど。
そして今回発動した打消魔法には【永続】効果も付与している。
だからあたしが【打消】を解除しない限り、【伝達】を解除することはできないってことだ。
その分、魔力はもりもり減っていくけど、正直言って安いものだ。
「初めに、結論から申し上げます」
というわけで、舞台は整った。
あたしはフレアと手を握り、笑みを浮かべ合う。
「フレア様とあたしは、互いに認め合った仲……親友です。そして、そんなあたしたちの仲を引き裂こうとした人物が居ます」
きっと、サイダールは必死になって【伝達】を解除しようと試していることだろう。
でも無駄だ。悪いけどあたしの魔力は並大抵じゃない。
サイダールが【ラビリンス】でどの程度の腕前だったのかは知らないけど、あたしの魔法を解除できると思ったら大間違いだ。
故に間に合う。
真実を白日の下に晒してやる。
「フレア」
「はいっ」
名を呼べば、応えてくれる。
フレアはしっかりと頷き、前を向く。そして己の口から真実を話した。
「わたしたちの仲を……ひいてはロンド王国とローテルハルク領の関係を壊そうとした人物、それはサイダールです」
フレアの口から、その名が出る。
言わされたのではなく、己の意思で口にした。
それが今、どれほどの効力を持つのか。
サイダールには痛いほどよく分かるはずだ。
それから先は、流れに身を任せるように二人で語り続けた。
あたしが暗殺未遂に遭ったこと。
サイダールが実行犯であり、同時に単独犯でもあること。
ちょっとした行き違いで、一度はフレアの身柄を拘束してしまったこと。
しかしすぐに解放し、自由の身になっていること。
フレア救出作戦は全く必要ないということ。
全てはサイダールによる企みであること。
王国とローテルハルク領の仲を引き裂き、紛争を起こし、英雄となって地位や名誉を手に入れるのが、サイダールの目的であること。
……まあ、これは若干話を盛っているけど構うことはない。
あたしとフレアの二人は、その全てを伝達魔法で明らかにした。すると、
「ほっ、報告! 報告です! 王国兵がっ、王都へと引き返して行きますっ!」
兵士が一人、伝令を持ってくる。
それはあたしが一番欲しかった結果だ。
王都から、王国兵は即時撤退の命が出されたということだろう。
撤退を始める王国兵を見たローテルハルク領の民たちは、一斉に湧き上がる。
「はあぁ、よかったです……」
「あんたのおかげで、死人が出ずに済んだわ」
その場に座り込み、フレアが安堵の息を吐く。
あたしは肩に手を置いて労いの言葉をかける。
「ありがとう、フレア」
「いえ、親友として当然のことをしたまでですから!」
グッと拳を作り、フレアが笑う。
【ラビリンス】の世界では叶わなかったけど、どうやらこの世界では、二人の聖女が手を取り合うことを許されたようだ。
だけど、まだ終わりじゃない。
サイダールの身柄を拘束するまでは安心できない。
「……あら、今度はあっちからみたいね」
あたしが伝達魔法を解除すると、今度は王国から伝達魔法が届いた。
どうやら国王直々にサイダールの身柄を拘束せよとの命を出したらしい。
これはサイダールが捕まるのも時間の問題……とはならないのが残念でならない。
サイダールは【ラビリンス】の元プレイヤーだ。王国とローテルハルク領を敵に回したとしても、逃げ延びる程度のことは容易だろう。
仮に捕まえることができるとすれば、同じく元プレイヤーのあたしぐらいのものか。
それよりも、シナリオ通りに事を運ぶことができずに、サイダールが自棄を起こさないかが心配だ。あたし一人に狙いを絞ってくれたら対処するのも楽なんだけどね。
結局、その日のうちにサイダールは行方を晦ませてしまった。
一瞬で、辺りを静寂が支配する。
随分と偉そうな物言いだけど、これでいい。
レミーゼにはお似合いの台詞と言えるだろう。
「――【伝達/指定:王都・王国軍】【打消/永続/対象:解除】」
杖を振らずに、二つの魔法を発動する。
それは、遠くに情報を伝えることのできる伝達魔法と、妨害対策の打消魔法だ。
「あたしの名はレミーゼ。アルバータ・ローテルハルク公爵の一人娘です」
まずは伝達魔法。
この魔法の効果により、あたしの姿と言葉が、指定した場所に届くことになる。
ここに居るローテルハルク領の民たちには直接、そして王都に居る人たちや、サイダール率いる二千の王国兵にも……。
「今、父が行方知らずとなっておりますので、このあたしがローテルハルク領を代表して思いを言葉にしたいと思います」
この台詞には、王都の民たちも驚いたことだろう。ローテルハルクの領主が居なくなったのだから当然だ。
しかし慌てることはない。
ここにはあたしが居る。ローテルハルク領にはレミーゼが居る。
「ですから、少しだけ……少しの間だけで構いませんので、どうかあたしの声に耳を傾けてください」
伝達魔法は、こちら側の情報を伝えるだけでなく、相手側の情報を得ることもできる。
現代で言い表すならば、テレビ電話に似ているだろうか。
そして打消魔法。
伝達魔法と共にあらかじめ発動しておくことで、対象の魔法を一度だけ打ち消すことができる。
あたしに演説させると都合が悪くなる人もいるだろうからね。
まあ、主にサイダール対策なんだけど。
そして今回発動した打消魔法には【永続】効果も付与している。
だからあたしが【打消】を解除しない限り、【伝達】を解除することはできないってことだ。
その分、魔力はもりもり減っていくけど、正直言って安いものだ。
「初めに、結論から申し上げます」
というわけで、舞台は整った。
あたしはフレアと手を握り、笑みを浮かべ合う。
「フレア様とあたしは、互いに認め合った仲……親友です。そして、そんなあたしたちの仲を引き裂こうとした人物が居ます」
きっと、サイダールは必死になって【伝達】を解除しようと試していることだろう。
でも無駄だ。悪いけどあたしの魔力は並大抵じゃない。
サイダールが【ラビリンス】でどの程度の腕前だったのかは知らないけど、あたしの魔法を解除できると思ったら大間違いだ。
故に間に合う。
真実を白日の下に晒してやる。
「フレア」
「はいっ」
名を呼べば、応えてくれる。
フレアはしっかりと頷き、前を向く。そして己の口から真実を話した。
「わたしたちの仲を……ひいてはロンド王国とローテルハルク領の関係を壊そうとした人物、それはサイダールです」
フレアの口から、その名が出る。
言わされたのではなく、己の意思で口にした。
それが今、どれほどの効力を持つのか。
サイダールには痛いほどよく分かるはずだ。
それから先は、流れに身を任せるように二人で語り続けた。
あたしが暗殺未遂に遭ったこと。
サイダールが実行犯であり、同時に単独犯でもあること。
ちょっとした行き違いで、一度はフレアの身柄を拘束してしまったこと。
しかしすぐに解放し、自由の身になっていること。
フレア救出作戦は全く必要ないということ。
全てはサイダールによる企みであること。
王国とローテルハルク領の仲を引き裂き、紛争を起こし、英雄となって地位や名誉を手に入れるのが、サイダールの目的であること。
……まあ、これは若干話を盛っているけど構うことはない。
あたしとフレアの二人は、その全てを伝達魔法で明らかにした。すると、
「ほっ、報告! 報告です! 王国兵がっ、王都へと引き返して行きますっ!」
兵士が一人、伝令を持ってくる。
それはあたしが一番欲しかった結果だ。
王都から、王国兵は即時撤退の命が出されたということだろう。
撤退を始める王国兵を見たローテルハルク領の民たちは、一斉に湧き上がる。
「はあぁ、よかったです……」
「あんたのおかげで、死人が出ずに済んだわ」
その場に座り込み、フレアが安堵の息を吐く。
あたしは肩に手を置いて労いの言葉をかける。
「ありがとう、フレア」
「いえ、親友として当然のことをしたまでですから!」
グッと拳を作り、フレアが笑う。
【ラビリンス】の世界では叶わなかったけど、どうやらこの世界では、二人の聖女が手を取り合うことを許されたようだ。
だけど、まだ終わりじゃない。
サイダールの身柄を拘束するまでは安心できない。
「……あら、今度はあっちからみたいね」
あたしが伝達魔法を解除すると、今度は王国から伝達魔法が届いた。
どうやら国王直々にサイダールの身柄を拘束せよとの命を出したらしい。
これはサイダールが捕まるのも時間の問題……とはならないのが残念でならない。
サイダールは【ラビリンス】の元プレイヤーだ。王国とローテルハルク領を敵に回したとしても、逃げ延びる程度のことは容易だろう。
仮に捕まえることができるとすれば、同じく元プレイヤーのあたしぐらいのものか。
それよりも、シナリオ通りに事を運ぶことができずに、サイダールが自棄を起こさないかが心配だ。あたし一人に狙いを絞ってくれたら対処するのも楽なんだけどね。
結局、その日のうちにサイダールは行方を晦ませてしまった。