部室には【ラビリンス】の機器一式が幾つか用意されていた。
迷宮研究所の部員たちは、これを使って今も【ラビリンス】の世界を堪能しているのだろう。
そしてあたしも、皆の仲間に加わることができる。
もう一度【ラビリンス】の世界に入ることができる。
それが嬉しくてたまらなかった。
でも……、
「じゃーんけーん、ぽんっ!」
何故だろう。
突然、部員たちがじゃんけんを始めたことに、あたしは違和感を覚えた。
「よっし! うちの勝ち~! じゃあ初挑戦はうちがもらうね!」
初挑戦……?
部員の一人が、訳の分からないことを言っている。
「ログイン状態を維持したまま移動するには、まずはパスコードが必要になるんだけど、教えてくれるかい?」
意識が逸れる。
彫人が話しかけてきて、あたしは何の疑いもなくパスコードを口にする。
「はいはーい、うちに注目~! 今日は記念すべき再ログインの日だからね! じゃんけん負けた皆は、うちが戻ってくるまで指咥えて待っててね~!」
じゃんけんに勝った女子部員の人……確か名前は田高東子? だったかな? その人がヘッドギアを装着する。
「えーっと、パスコードを音声入力だっけ? おっけおっけ、パスコードは~」
「あ、あの、あのっ! それ、あたしの……!」
「ん? うん、知ってる。ありがとね!」
悪びれた様子もなく、ヘッドギア越しに東子が答える。
「……っ」
ふ、ふざけるな。
それはあたしのアカウントだ。あたしの分身を乗っ取られてたまるか!
「パスコードの音声入力、完了しましてーっと、……あ?」
あたしは、東子がパスコードの入力を終えたのを見計らって、ヘッドギアを強引に引っ張って外すと、自分の頭部に装着する。
「は? おい待てよ! 返せっ! それはうちのアカウントだぞ!」
「違う! これはあたしのアカウントだから!」
「バカかっ! じゃんけんで勝ったのはうちなんだよ! いいから寄こせ!」
狂ったような声がヘッドギア越しに聞こえてくるけど、取られてたまるものかと必死に抵抗する。
とここで、ヘッドギアに映る画面が真っ暗になってしまった。
これはいったい……。
「が、画面が暗い……? エラー、……みたいです」
「エラーだって? ということは、あの噂は嘘だったのか……?」
どうやらログイン状態を移動するときにヘッドギアを外してしまったため、パスコード自体が無効になってしまったらしい。
でも、彫人の台詞から察するに、この行為自体が意味のないことだったのではないかと、今更ながらに思ってしまった。
だとすれば、ここに来たのは無意味だったってことだ。
ただの骨折り損のくたびれ儲け……ガッカリしたそのときだった。
「――ッ!?」
い、痛い。
腹部に尋常ではない痛みを感じた。
「な、なにこれ……っ」
「死ね! クソ女! うちの【ラビリンス】を返せ! 返せ! 今すぐ返せ!」
「お、おい、東子! 落ち着くんだ! エラーだって言ってるじゃないか!」
「うるさい! エラーって言えばうちが騙されると思ってんだろ! そんなクソみたいな嘘が通用するかボケッ!!」
「分かったから! とりあえずハサミ! ハサミを置いてくれ! 振り回したら危ないから――痛って!」
どうやらあたしは、ハサミで刺されたらしい。
ヘッドギアを付けたままだから、部室で何が起きているのか、しっかりと見ることはできない。でも、声を聞けば分かる。
今、部室は地獄と化している。
田高東子がハサミを振り回し、あたしの他にも刺されて倒れた人がいるみたいだ。
「う、……うぅ」
薄れゆく意識の中、あたしはこの期に及んで口を動かす。
「パス、コード……音声、入力……」
あたしが彫人に教えたのは、通常アカウントのパスコードだった。
だから今度は、βテスターのアカウントのパスコードを音声入力してみる。
どうせ無駄なのに……。
そしてあたしは、部室の床に横たわったまま、意識が途切れた――……。
迷宮研究所の部員たちは、これを使って今も【ラビリンス】の世界を堪能しているのだろう。
そしてあたしも、皆の仲間に加わることができる。
もう一度【ラビリンス】の世界に入ることができる。
それが嬉しくてたまらなかった。
でも……、
「じゃーんけーん、ぽんっ!」
何故だろう。
突然、部員たちがじゃんけんを始めたことに、あたしは違和感を覚えた。
「よっし! うちの勝ち~! じゃあ初挑戦はうちがもらうね!」
初挑戦……?
部員の一人が、訳の分からないことを言っている。
「ログイン状態を維持したまま移動するには、まずはパスコードが必要になるんだけど、教えてくれるかい?」
意識が逸れる。
彫人が話しかけてきて、あたしは何の疑いもなくパスコードを口にする。
「はいはーい、うちに注目~! 今日は記念すべき再ログインの日だからね! じゃんけん負けた皆は、うちが戻ってくるまで指咥えて待っててね~!」
じゃんけんに勝った女子部員の人……確か名前は田高東子? だったかな? その人がヘッドギアを装着する。
「えーっと、パスコードを音声入力だっけ? おっけおっけ、パスコードは~」
「あ、あの、あのっ! それ、あたしの……!」
「ん? うん、知ってる。ありがとね!」
悪びれた様子もなく、ヘッドギア越しに東子が答える。
「……っ」
ふ、ふざけるな。
それはあたしのアカウントだ。あたしの分身を乗っ取られてたまるか!
「パスコードの音声入力、完了しましてーっと、……あ?」
あたしは、東子がパスコードの入力を終えたのを見計らって、ヘッドギアを強引に引っ張って外すと、自分の頭部に装着する。
「は? おい待てよ! 返せっ! それはうちのアカウントだぞ!」
「違う! これはあたしのアカウントだから!」
「バカかっ! じゃんけんで勝ったのはうちなんだよ! いいから寄こせ!」
狂ったような声がヘッドギア越しに聞こえてくるけど、取られてたまるものかと必死に抵抗する。
とここで、ヘッドギアに映る画面が真っ暗になってしまった。
これはいったい……。
「が、画面が暗い……? エラー、……みたいです」
「エラーだって? ということは、あの噂は嘘だったのか……?」
どうやらログイン状態を移動するときにヘッドギアを外してしまったため、パスコード自体が無効になってしまったらしい。
でも、彫人の台詞から察するに、この行為自体が意味のないことだったのではないかと、今更ながらに思ってしまった。
だとすれば、ここに来たのは無意味だったってことだ。
ただの骨折り損のくたびれ儲け……ガッカリしたそのときだった。
「――ッ!?」
い、痛い。
腹部に尋常ではない痛みを感じた。
「な、なにこれ……っ」
「死ね! クソ女! うちの【ラビリンス】を返せ! 返せ! 今すぐ返せ!」
「お、おい、東子! 落ち着くんだ! エラーだって言ってるじゃないか!」
「うるさい! エラーって言えばうちが騙されると思ってんだろ! そんなクソみたいな嘘が通用するかボケッ!!」
「分かったから! とりあえずハサミ! ハサミを置いてくれ! 振り回したら危ないから――痛って!」
どうやらあたしは、ハサミで刺されたらしい。
ヘッドギアを付けたままだから、部室で何が起きているのか、しっかりと見ることはできない。でも、声を聞けば分かる。
今、部室は地獄と化している。
田高東子がハサミを振り回し、あたしの他にも刺されて倒れた人がいるみたいだ。
「う、……うぅ」
薄れゆく意識の中、あたしはこの期に及んで口を動かす。
「パス、コード……音声、入力……」
あたしが彫人に教えたのは、通常アカウントのパスコードだった。
だから今度は、βテスターのアカウントのパスコードを音声入力してみる。
どうせ無駄なのに……。
そしてあたしは、部室の床に横たわったまま、意識が途切れた――……。