夢は鮮明だ。
 過去の出来事のあれこれを、これでもかと詳しく細かくなぞってくれる。

 そう、その男の名前は倉野崎彫人。【迷宮研究所】サークルの部長だった。

 手を繋いでサークル室に招かれたあたしは、部員の人たちと挨拶を交わし、自己紹介をした。そのとき、またしても同じ質問をされた。

「ねえ、貴女? もしかしてβテスター? まだログインしてる?」

 彫人の話によると、【ラビリンス】はサービスを停止したはずが、それは表向きの発表であって、完全には停止していないらしい。

 ログアウトをしていないアカウントは、今現在もログイン状態であり、【ラビリンス】の世界に入ることができる。

 但し、通常のアカウントでは意味がない。
 βテスターのログイン状態のアカウントであることが条件だという。

「うそ? いやいや、嘘なんかじゃないよ。だってほら、うちの部員の中にもβテスターが居てね、今日もログインしていたんだよ?」

 それは誰かが吐いた嘘なのではないかと訊ねると、彫人と部員たちは笑顔で否定する。

 このサークルの部員にβテスターが数名居るらしく、実際に今も【ラビリンス】の世界で遊んでいると言われた。

 知っている人は知っている。
 でも隠している。

 世間的に見れば、死者が出たゲームなのだから、当然と言えば当然だ。

「だから安心していいよ。βテスターのきみなら、また【ラビリンス】で遊ぶことができる」

 皆の話を聞いて、あたしは希望を持った。
 もう一度、【ラビリンス】の世界に入ることができる。それが嬉しかった。

 でも、すぐに落胆する。

 あたしの【ラビリンス】の機器一式は、既に処分されてしまった。
 だからもう、ログインすることはできない。

 そう言うと、彫人は大丈夫だよと返事をする。

「ログインしたままなんだよね? だったら、パスコードを音声入力するだけで、別の機器からでもログイン状態を維持したまま移動することができるよ」

 彫人の説明によって、あたしの懸念事項は無くなった。
 これであとは思う存分遊ぶことができる。

 そのとき、ふと思い出した。
 正式稼働したあとの通常アカウントも、ログインしたままだった。

 βテスター時のアカウントのことばかり聞かれるものだから、そっちに意識が向いていたけど、通常アカウントで試すのも有りかもしれない。

 あたしは【ラビリンス】にログインしてから、これまで一度もログアウトしたことがない。ヘッドギアを外すときも、ログアウトせずにそのままの状態を維持していた。

 何故そうしていたのか。
 一度でもログアウトしてしまったら、【ラビリンス】の世界のもう一人のあたしが消えてしまうかもしれないと、心のどこかで恐怖していたからだった。

「βテスターには、そういう人が多いらしいね」

 彫人に言われて気付いたけど、他の人も同じ感覚を持っているらしい。

「さあ、そろそろいいかな? ログイン状態を移動するための説明をするよ」

 急かすように、待ち切れないように、彫人が言う。

 あたしも今すぐに【ラビリンス】の世界に入りたかったので、目の前にぶら下げられた餌に食いつき、深く考えるのを止めた。

 その結果、ここに居る全員が後悔することになった……。