レミーゼのコレクション……拷問器具が並べられた地下室。
そこに逃げ込んだあたしは、レミーゼの亡骸と再会する。
「っ」
思わず目を背ける。
すると、その様子を見たであろうアルバータが高笑いした。
「はっはっは、逃げ場がなくなったわけだが、そろそろ神に祈る準備はできたかな?」
「神様? そんなもん居ないから!」
「くくく、それにはわしも同意しよう。もしこの世界に神が居たならば、妻がわしの許を去るはずがないのだからな」
逃げられたっぽい。
そりゃそうだ、こんな奇人変人狂人のおっさんと一緒に暮らしていけるものか。
アルバータ・ローテルハルク公爵は、娘のレミーゼと同じく【ラビリンス】のボスキャラの一人だ。故に、その腕も申し分ない。
主に全体型攻撃魔法を駆使し、王国兵をまとめて葬り去っていた。
その行動の全ては、レミーゼを守るためのもの。領民はもちろん、自分の命でさえも惜しくないと思えるほど、レミーゼのことを可愛く思っていたのだろう。
でも、所詮は序盤のボスキャラでしかない。
「段々、この感覚に慣れてきたかも」
「感覚?」
「ええ、この世界の緊張感ってやつにね」
脅威ではない。
βテストのときから【ラビリンス】漬けだった、あたしの敵じゃない。
使ってくる攻撃魔法も一番上が中級だし、これなら余裕をもって無力化することができるはずだ。
「きみが何を言っているのか、わしには理解できないが……まあいい。我が娘がしてきたように、きみを【隷属】で奴隷化して聞き出すことにしよう。たとえば、我が娘の最期はどうだったのか……とかな」
そう言って、アルバータはレミーゼへと視線を落とす。
「【拘束/鎖錠】!」
レミーゼの亡骸が見ている前で、あたしは再び拘束魔法を発動する。
今度のは、風属性の攻撃魔法では対処するのが難しい。恐らくは身を守る防御魔法か、回避行動を取るはず。その隙を突いて……。
「【反射】」
「――ッ!?」
そのとき耳に届いたのは、レミーゼ戦であたしが使用した防御魔法【反射】だった。
「ぐっ、……っ」
「やれやれ、実に無様だな」
あたしが拘束魔法を使うのを待っていたのだろう。アルバータはタイミングを見計らって【反射】の発動に成功し、逆にあたしが拘束されてしまった。
そんなあたしを見下ろしながら、アルバータは舌なめずりをする。
「我が娘の亡骸を見て、わしはすぐに理解した。きみが【反射】を使ったことを」
「ただの変態ってわけじゃないみたいね……」
あたしの台詞に、アルバータがニヤリと笑う。
先ほど地下室に下りたとき、レミーゼの状態を確認したはずだ。
その際、死因が電撃魔法によるものだと推理したのだろう。
そしてレミーゼは電撃魔法の使い手だ。
ということはつまり、あたしが電撃魔法を使うのか、それともレミーゼが自分の魔法で死んでしまったかの二択となる。
「ふむ。我が娘の前で我が娘の姿をしたきみを拷問できると思うと、鼓動の高鳴りを止めることができそうにない」
あたしがチャンスだと思っていたものは、アルバータがワザと作り出した隙に過ぎなかった。これも全ては、あたしの油断によるものだ。
【ラビリンス】の世界のアルバータは、【反射】を使わない。
だからこの世界のアルバータも使えないと思い込んでいた。
「……訂正、やっぱり変態ね」
ダメだな、どうやらあたしは、この期に及んでまだ現実感がなかったらしい。
この世界の認識を改め直さなければならない。
「【解除/鎖錠】」
「おや、また拘束を解いてしまったか」
目線を逸らすことなく、ゆっくりとその場に立ち上がる。
そしてもう一度、アルバータと顔を合わせた。
「では、今度は解除魔法が無意味となるよう、手足を切断することにしよう」
「さらっと怖いことを言うのね」
「怖い……? ははは、我が娘を殺したきみが、それを言うか?」
言われてみれば確かに。
人殺しのあたしが言える台詞ではない。
「見て見たまえ、ここには我が娘が愛した無数の拷問器具がある。その一つ一つに物語があり、この空間に様々な悲鳴が鳴り響いたことだろう。そして之より、新たな悲鳴が加わることになる。その主役となる人物が誰なのか、聡明なきみであれば、理解可能なはずだ」
あたしが主役ってことか。
その話の主役になるのはごめんだけど、転生までしちゃってるし、ある意味あたしは物語の主人公なのかもしれない。【ラビリンス】に似たこの世界限定の……。
「……撤回するわ」
「撤回? ……はて、何をかな」
「当初は、あんたを拘束して無力化するつもりだった……けど、それだけじゃダメなんだってことに気が付いた」
「ほう。なるほど? だとすれば、どうするつもりかな」
「決まってんでしょ」
もう、決めた。
【ラビリンス】に似たこの世界で生きていくには、覚悟を決める必要がある。
だからあたしは、心を閉じる。
そして……、
「アルバータ・ローテルハルク公爵……今からあんたを殺すから」
そこに逃げ込んだあたしは、レミーゼの亡骸と再会する。
「っ」
思わず目を背ける。
すると、その様子を見たであろうアルバータが高笑いした。
「はっはっは、逃げ場がなくなったわけだが、そろそろ神に祈る準備はできたかな?」
「神様? そんなもん居ないから!」
「くくく、それにはわしも同意しよう。もしこの世界に神が居たならば、妻がわしの許を去るはずがないのだからな」
逃げられたっぽい。
そりゃそうだ、こんな奇人変人狂人のおっさんと一緒に暮らしていけるものか。
アルバータ・ローテルハルク公爵は、娘のレミーゼと同じく【ラビリンス】のボスキャラの一人だ。故に、その腕も申し分ない。
主に全体型攻撃魔法を駆使し、王国兵をまとめて葬り去っていた。
その行動の全ては、レミーゼを守るためのもの。領民はもちろん、自分の命でさえも惜しくないと思えるほど、レミーゼのことを可愛く思っていたのだろう。
でも、所詮は序盤のボスキャラでしかない。
「段々、この感覚に慣れてきたかも」
「感覚?」
「ええ、この世界の緊張感ってやつにね」
脅威ではない。
βテストのときから【ラビリンス】漬けだった、あたしの敵じゃない。
使ってくる攻撃魔法も一番上が中級だし、これなら余裕をもって無力化することができるはずだ。
「きみが何を言っているのか、わしには理解できないが……まあいい。我が娘がしてきたように、きみを【隷属】で奴隷化して聞き出すことにしよう。たとえば、我が娘の最期はどうだったのか……とかな」
そう言って、アルバータはレミーゼへと視線を落とす。
「【拘束/鎖錠】!」
レミーゼの亡骸が見ている前で、あたしは再び拘束魔法を発動する。
今度のは、風属性の攻撃魔法では対処するのが難しい。恐らくは身を守る防御魔法か、回避行動を取るはず。その隙を突いて……。
「【反射】」
「――ッ!?」
そのとき耳に届いたのは、レミーゼ戦であたしが使用した防御魔法【反射】だった。
「ぐっ、……っ」
「やれやれ、実に無様だな」
あたしが拘束魔法を使うのを待っていたのだろう。アルバータはタイミングを見計らって【反射】の発動に成功し、逆にあたしが拘束されてしまった。
そんなあたしを見下ろしながら、アルバータは舌なめずりをする。
「我が娘の亡骸を見て、わしはすぐに理解した。きみが【反射】を使ったことを」
「ただの変態ってわけじゃないみたいね……」
あたしの台詞に、アルバータがニヤリと笑う。
先ほど地下室に下りたとき、レミーゼの状態を確認したはずだ。
その際、死因が電撃魔法によるものだと推理したのだろう。
そしてレミーゼは電撃魔法の使い手だ。
ということはつまり、あたしが電撃魔法を使うのか、それともレミーゼが自分の魔法で死んでしまったかの二択となる。
「ふむ。我が娘の前で我が娘の姿をしたきみを拷問できると思うと、鼓動の高鳴りを止めることができそうにない」
あたしがチャンスだと思っていたものは、アルバータがワザと作り出した隙に過ぎなかった。これも全ては、あたしの油断によるものだ。
【ラビリンス】の世界のアルバータは、【反射】を使わない。
だからこの世界のアルバータも使えないと思い込んでいた。
「……訂正、やっぱり変態ね」
ダメだな、どうやらあたしは、この期に及んでまだ現実感がなかったらしい。
この世界の認識を改め直さなければならない。
「【解除/鎖錠】」
「おや、また拘束を解いてしまったか」
目線を逸らすことなく、ゆっくりとその場に立ち上がる。
そしてもう一度、アルバータと顔を合わせた。
「では、今度は解除魔法が無意味となるよう、手足を切断することにしよう」
「さらっと怖いことを言うのね」
「怖い……? ははは、我が娘を殺したきみが、それを言うか?」
言われてみれば確かに。
人殺しのあたしが言える台詞ではない。
「見て見たまえ、ここには我が娘が愛した無数の拷問器具がある。その一つ一つに物語があり、この空間に様々な悲鳴が鳴り響いたことだろう。そして之より、新たな悲鳴が加わることになる。その主役となる人物が誰なのか、聡明なきみであれば、理解可能なはずだ」
あたしが主役ってことか。
その話の主役になるのはごめんだけど、転生までしちゃってるし、ある意味あたしは物語の主人公なのかもしれない。【ラビリンス】に似たこの世界限定の……。
「……撤回するわ」
「撤回? ……はて、何をかな」
「当初は、あんたを拘束して無力化するつもりだった……けど、それだけじゃダメなんだってことに気が付いた」
「ほう。なるほど? だとすれば、どうするつもりかな」
「決まってんでしょ」
もう、決めた。
【ラビリンス】に似たこの世界で生きていくには、覚悟を決める必要がある。
だからあたしは、心を閉じる。
そして……、
「アルバータ・ローテルハルク公爵……今からあんたを殺すから」