「……だ、誰って、……あたしはレミーゼですわ」
「うむ。見れば分かる。その上で聞いているのだ。きみは誰なのかと」

 ダメだ、これ絶対バレてる。
 油断するなと自分に言い聞かせたはずなのに、またしてもやられてしまった。

 アルバータに拘束魔法を使われたあたしは、手足の自由を奪われた。
 追撃が来るとマズイ。今すぐに【拘束】を解除しなくては……。

「……ふむ、まあいい。言いたくないのであれば構わんよ」

 そう言うと、アルバータはあたしの傍を離れて……他の部屋には見向きもせず、地下室の階段を下りていった。

 どうして?
 何か知っているのだろうか?

 このままでは見られてしまう。
 アルバータに、レミーゼの亡骸を……。

 暫くすると、アルバータは非常に軽やかな足取りで階段を上ってきた。
 その顔に感情は見当たらず、先ほど同様、真顔に見えた。

「間違いであってほしかったが……」

 あたしには目もくれずに地下室に向かったことから察するに、アルバータは初めから知っていたのだろう。
 自分の娘、レミーゼが死んでいることを……。

 でも、だとすれば誰から漏れた?
 レミーゼの死体は誰にも見られていないはずだ。

 テイリーが屋敷に入ったときも地下室には行かせなかった。
 となると、あたしが孤児院やゲルモの拠点に向かっている間に、何者かが屋敷の中に入ったのかもしれない。

 あたしはてっきり、監守のオットン辺りがレバスチャンやアルバータに告げ口したから、召喚命令が出たと思っていた。
 けど、それは間違いだったらしい。

「我が愛する娘のことならば、何であろうと知っている。それこそほんの些細な仕草や喋り方、表情の作り方……その全てをね」

 正解を絞り出そうと思考を巡らせていると、アルバータが話を始めた。

「だからきみを見た瞬間、違和の演出に気付いたのだ。目の前にいるはずの我が娘が偽者であるのだと」

 親子の絆とでも言うのだろうか。アルバータはあたしが偽者だと気付いて、本物のレミーゼがどこにいるのか推測した。そして見当がついた。
 それが地下室というわけだ。

「さて、」

 一歩、あたしに近づく。
 既にアルバータは真顔ではなくなっていた。今はとにかく楽しそうな表情をしている。

「果たしてきみが何者なのか……そんなことはどうでもいい。だが、我が娘レミーゼを無残な姿に変えた罪は重い……」

 近づいたかと思えば、ゆっくりゆっくりと獲物を見定めるかのように、あたしを中心に歩いて回る。

「……しかしだ。幸いなことに、この屋敷には拷問器具が山のようにある。故に、その一つ一つを用いることで、きみに罪を償わせようではないか」

 そう告げると、アルバータは口角を上げた。
 さすがはレミーゼの父親だ。拷問することへの躊躇いがない。

「拷問……ね」

 でも、レミーゼに続いて、アルバータからの拷問までも甘んじて受け入れるほど、あたしはMな性格ではない。

「それ、痛いから拒否してもいい?」

 あたしはその場に立ち上がり、アルバータから距離を取る。
 アルバータが地下室の様子を見に行っている隙に、あたしは手足の拘束を解いていた。

「ほう、解除魔法を使えるのか……どうやらなかなかの手練れのようだ」

 逃げることはできるかもしれないが、アンとドゥの件もある。だから逃げるつもりは毛頭ない。
 となれば、今やるべきことは、ただ一つ。

「次は、あたしがあんたを拘束してあげる」

 アルバータの自由を奪い、【隷属】で奴隷化する。そうすればあたしへの攻撃を防ぐことができるし、逃げても追うことができなくなる。

 それこそが、その命をもぎ取ることなく、あたしがこの世界で生き残る唯一の道だ。

「くく、それは実に興奮しそうだ」

 その言葉を合図に、アルバータとの交戦が始まった。