「人気過ぎでしょ、レミーゼ……」
レミーゼの姿で城下町を歩くと、まるで芸能人にでもなった気分だ。
孤児院から城の門前まで移動するだけなのに、どれだけ時間がかかったことか……。
屋敷に行くには、裏ルートが一番効率いい。
でも、これだけ大勢の人たちについて来られてしまっては、実際に城下町の方から裏ルートを通って屋敷に行くことはできないので、断念した。
アレはあくまでも秘密の抜け道なので、知る人物は少ない方がいいだろう。
だから結局、あたしは門前で敬礼する兵士たちに挨拶を済ませて、屋敷へと向かうことになった。
恐らくは、レバスチャンにも報告が行くだろう。つまり、あまり猶予がないということになる。
屋敷へと戻ったあたしは、玄関の扉を開けて真っ先に地下室へと続く階段を下り……ようとはしなかった。
この先にレミーゼの亡骸がある……そう思うと、急に足が前へ進まなくなってしまった。
「意気地がないな、あたし」
もちろん、このままではいられない。
下りなければ何も変わらない。
「……ん」
目を背ける。ちょうどその先には書斎があった。
階段の前から移動して入ってみると、レミーゼが集めた本がたくさん並んでいる。
あたしは本棚の前に立ち、一旦心を落ち着かせる。
並べられてある本の背表紙を一つ一つ眺めていく。
どうやら恋愛小説がほとんどのようだ。
いや、タイトルがそう見えるだけで、中身は違うかもしれない。
そう考え、実際に一冊、手に取ってページをパラパラと捲ってみる。
……うん。間違いない。
これもあれも、そっちのやつも、全部が恋愛小説だった。
しかもよく見れば、ここに置いてある本は、どれも同じ作家さんのものだ。
こんなに集めるほど、この作家さんのことが好きだったのかも。
というか、レミーゼって恋愛小説が好きだったのか。【ラビリンス】では絶対に知ることのできなかった新事実だよ……。
「……恋人、いたのかな」
こんなにたくさん恋愛小説があるってことは、恋にも興味があったのかもしれない。
いや、そもそもレミーゼは公爵令嬢なのだから、既に相手が……婚約者がいてもおかしくはない。
もし、相手がいたとしたら、その人には申し訳ないことをした。
レミーゼの命を奪ってしまったから……。
「……え? これって……」
手に持っていた本を棚に戻そうとしたとき、たまたま気付いた。
本棚の奥に隙間がある。
指を引っかけて開いてみると、その奥には更に別の本が隠されていた。
「うわっ、拷問系の本ばっかり……」
つい、声が出てしまう。
そこに並んであったのは、主に拷問に関する本だった。
うら若き乙女の裏の顔を垣間見た瞬間だ。
……いや、拷問好きなのは知っているんだけどね。
「禁書もある……」
拷問本のほかにも、禁忌魔法について書かれたものや、電撃魔法の応用本なんかも置いてある。この感じだと、表の恋愛小説はただのカモフラージュで、興味があるわけではなさそうだ。
レミーゼのことをもっと深く知りたければ、この辺りに目を通すといいだろう。でも、死体を片付けたあとは、レミーゼに成り済ます必要もない。
だからこれはあたしとレミーゼだけの秘密にしておこう……。
「――ッ!?」
そう思って裏の棚を戻したとき、玄関の扉が勢いよく開く音が聞こえた。
と同時に、ドタドタと足音が響く。
そしてあたしの前に姿を見せる人物が一人。それは……。
「おおぉ、おおおっ! レミーゼッ! 我が娘レミーゼよ!!」
「……ご、御機嫌よう、お父様」
涙と鼻水にまみれた顔のアルバータ・ローテルハルク公爵が、そこにいた。
レミーゼの姿で城下町を歩くと、まるで芸能人にでもなった気分だ。
孤児院から城の門前まで移動するだけなのに、どれだけ時間がかかったことか……。
屋敷に行くには、裏ルートが一番効率いい。
でも、これだけ大勢の人たちについて来られてしまっては、実際に城下町の方から裏ルートを通って屋敷に行くことはできないので、断念した。
アレはあくまでも秘密の抜け道なので、知る人物は少ない方がいいだろう。
だから結局、あたしは門前で敬礼する兵士たちに挨拶を済ませて、屋敷へと向かうことになった。
恐らくは、レバスチャンにも報告が行くだろう。つまり、あまり猶予がないということになる。
屋敷へと戻ったあたしは、玄関の扉を開けて真っ先に地下室へと続く階段を下り……ようとはしなかった。
この先にレミーゼの亡骸がある……そう思うと、急に足が前へ進まなくなってしまった。
「意気地がないな、あたし」
もちろん、このままではいられない。
下りなければ何も変わらない。
「……ん」
目を背ける。ちょうどその先には書斎があった。
階段の前から移動して入ってみると、レミーゼが集めた本がたくさん並んでいる。
あたしは本棚の前に立ち、一旦心を落ち着かせる。
並べられてある本の背表紙を一つ一つ眺めていく。
どうやら恋愛小説がほとんどのようだ。
いや、タイトルがそう見えるだけで、中身は違うかもしれない。
そう考え、実際に一冊、手に取ってページをパラパラと捲ってみる。
……うん。間違いない。
これもあれも、そっちのやつも、全部が恋愛小説だった。
しかもよく見れば、ここに置いてある本は、どれも同じ作家さんのものだ。
こんなに集めるほど、この作家さんのことが好きだったのかも。
というか、レミーゼって恋愛小説が好きだったのか。【ラビリンス】では絶対に知ることのできなかった新事実だよ……。
「……恋人、いたのかな」
こんなにたくさん恋愛小説があるってことは、恋にも興味があったのかもしれない。
いや、そもそもレミーゼは公爵令嬢なのだから、既に相手が……婚約者がいてもおかしくはない。
もし、相手がいたとしたら、その人には申し訳ないことをした。
レミーゼの命を奪ってしまったから……。
「……え? これって……」
手に持っていた本を棚に戻そうとしたとき、たまたま気付いた。
本棚の奥に隙間がある。
指を引っかけて開いてみると、その奥には更に別の本が隠されていた。
「うわっ、拷問系の本ばっかり……」
つい、声が出てしまう。
そこに並んであったのは、主に拷問に関する本だった。
うら若き乙女の裏の顔を垣間見た瞬間だ。
……いや、拷問好きなのは知っているんだけどね。
「禁書もある……」
拷問本のほかにも、禁忌魔法について書かれたものや、電撃魔法の応用本なんかも置いてある。この感じだと、表の恋愛小説はただのカモフラージュで、興味があるわけではなさそうだ。
レミーゼのことをもっと深く知りたければ、この辺りに目を通すといいだろう。でも、死体を片付けたあとは、レミーゼに成り済ます必要もない。
だからこれはあたしとレミーゼだけの秘密にしておこう……。
「――ッ!?」
そう思って裏の棚を戻したとき、玄関の扉が勢いよく開く音が聞こえた。
と同時に、ドタドタと足音が響く。
そしてあたしの前に姿を見せる人物が一人。それは……。
「おおぉ、おおおっ! レミーゼッ! 我が娘レミーゼよ!!」
「……ご、御機嫌よう、お父様」
涙と鼻水にまみれた顔のアルバータ・ローテルハルク公爵が、そこにいた。