「【拘束/土面】」
「うぅっ、むぐうっ!」
次に発動した魔法は【拘束/土面】。これは対象のプレイヤーの顔に土の仮面を張り付けるといったものになる。
この世界では、プレイヤーではなくあたしが指定した人物になる。その相手はもちろん、ゲルモだ。
土でできた縄で、地面にうつ伏せの状態で拘束されていたゲルモは、土の仮面をかぶることで視界も遮られることになった。
「……ど、どうして……?」
とここで、聞き覚えのある声が耳に届く。
振り返ってみると、馬車の牢から出た二人があたしを見ていた。
「遅くなってごめんなさいね。ここに来るまで少し時間がかかってしまったわ」
アンとドゥに対し、頭を下げて謝罪する。
その姿を見た二人は、あまりの衝撃に固まっている。それは村の人たちも同様だ。
公爵令嬢であり聖女でもあるレミーゼが、自ら頭を下げたのだから、当然と言えば当然だ。まあ、中身はあたしですけど。
他の罪人たちもぞろぞろと降りてくる。なんだか余計な人たちもまとめて解放しちゃったけど……この村、大丈夫かな? 段々と心配になってきた。
「レミーゼ……さま? どうして、わたしたちを助けてくれたんですか?」
やはり疑問に感じているのだろう。
我慢できずに、アンが訊ねてきた。
「聖女が人を助けるのに理由なんて要ると思う?」
「――ッ!!」
本当は理由だらけなんだけど、真実は闇の中へポイっと捨てておこう。
それが一番あたしにとって安心で安全だ。
ゲルモの魔の手から、二人とその他数名を救い出したあと、暫く経った。
この村の人たちの話では、ゲルモはいつも一人で行動していたらしく、仲間はいなかったらしい。
ただ、村人のほとんどが、ゲルモから雇われの身であることが判明した。
仲間ではない。しかし、ゲルモが奴隷商であることを知っている。
村に連れてきた罪人や奴隷たちの、見張りや世話を引き受けることで、この村にお金を落としてもらっていたのだ。
その仕組みを、あたしが壊してしまった。
このままにしておけば、この村に入るはずの固定収入がゼロになる。生活基盤が崩れてしまうだろう。
さすがにそれは申し訳ないので、あたしは一つ提案というか取引を持ちかけることにした。それは、引き続き罪人や奴隷たちの世話をするといったものだ。
レミーゼ直々のお願いに、村人たちはとても喜んでくれた。
その様子を見るに、お金さえ稼ぐことができれば、たとえ雇い主が変わろうが関係ないということなのだろう。
それから、ゲルモが住んでいた家に、アンとドゥ、ついでに他の人たちも匿うことを決めた。
「おぉ……これが噂の、ローテルハルクの聖女様……!」
「本物? 本物か? ……すげえ、あのフレア様と比べても遜色ないほどの美貌の持ち主じゃないか!」
「ああ、しかも聖女の名に相応しいお振舞い……! そしてご慈悲……ッ!!」
罪人たちは、実際に悪事を働いていたものが大半を占める。
しかしそんな彼らも、あたし自ら助けに来た姿を見て感激したのか、揃いも揃って心を入れ替えて真面目に生きていきます、と口にしていた。……結構単純な人たちだ。
「あ、あの……! この度は助けていただきまして、ま、誠にありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
その夜、アンとドゥの二人と一緒に話をする機会を設けた。
あたしは【変身】を解いてトロアの姿を見せようかと思ったけど、正体を知ることで、二人に危険が及ぶ可能性もゼロではない。
考えた結果、あたしは正体を明かさずにいることにした。
「気にしないでちょうだい。あたしは自分のやるべきことをやったまでだから」
あたしが返事をすると、二人は聖女を崇めるような視線を向ける。
この様子では恐らく、レミーゼのことをいい人だと勘違いしていることだろう。
「そ、そうだ……! あのっ、レミーゼ様! 妹は……トロアは、元気でやってますか?」
とここで、アンが心中何よりも聞きたかったことを口にした。
その質問は絶対に来るものだと分かっていたので、あたしは動じずに答える。
「ええ、元気よ。あたしの屋敷の掃除係として頑張っているわ」
「よかった……やっぱりレミーゼ様は聖女様だったんだ……!」
「ふふ。危険だったから今日はあたし一人でここに来たけど、次来るときはトロアも一緒に連れて来るから、楽しみにしておいてちょうだい」
「! はいっ! ありがとうございます!」
本音は、今すぐに一目だけでも会いたいだろう。
でも、アンとドゥは我がままを言わなかった。一度あたしに助けてもらったからか、完全に信頼しているようだ。
……案外騙され易いな。
あたしとゲルモが共謀している可能性もあるんだから、もう少し疑った方がいいよ。
と言っても、あたし的に面倒なことになるだけなので、今のままでいいけどね。
「ねえ、二人とも。もしよかったらなんだけど、貴女たち三姉妹のことを詳しく聞かせてもらえないかしら?」
「もちろんです!」
「何から話しましょうか? なんでも教えますよ!」
「うーん、そうねえ……」
ノリノリの二人に対し、頭を悩ませる。
まずは、あたしが転生してしまったトロアについてと、その周辺事情について教えてもらうことにしよう。
そして、あたしは暫くの間、二人と言葉を交わすのだった。
「うぅっ、むぐうっ!」
次に発動した魔法は【拘束/土面】。これは対象のプレイヤーの顔に土の仮面を張り付けるといったものになる。
この世界では、プレイヤーではなくあたしが指定した人物になる。その相手はもちろん、ゲルモだ。
土でできた縄で、地面にうつ伏せの状態で拘束されていたゲルモは、土の仮面をかぶることで視界も遮られることになった。
「……ど、どうして……?」
とここで、聞き覚えのある声が耳に届く。
振り返ってみると、馬車の牢から出た二人があたしを見ていた。
「遅くなってごめんなさいね。ここに来るまで少し時間がかかってしまったわ」
アンとドゥに対し、頭を下げて謝罪する。
その姿を見た二人は、あまりの衝撃に固まっている。それは村の人たちも同様だ。
公爵令嬢であり聖女でもあるレミーゼが、自ら頭を下げたのだから、当然と言えば当然だ。まあ、中身はあたしですけど。
他の罪人たちもぞろぞろと降りてくる。なんだか余計な人たちもまとめて解放しちゃったけど……この村、大丈夫かな? 段々と心配になってきた。
「レミーゼ……さま? どうして、わたしたちを助けてくれたんですか?」
やはり疑問に感じているのだろう。
我慢できずに、アンが訊ねてきた。
「聖女が人を助けるのに理由なんて要ると思う?」
「――ッ!!」
本当は理由だらけなんだけど、真実は闇の中へポイっと捨てておこう。
それが一番あたしにとって安心で安全だ。
ゲルモの魔の手から、二人とその他数名を救い出したあと、暫く経った。
この村の人たちの話では、ゲルモはいつも一人で行動していたらしく、仲間はいなかったらしい。
ただ、村人のほとんどが、ゲルモから雇われの身であることが判明した。
仲間ではない。しかし、ゲルモが奴隷商であることを知っている。
村に連れてきた罪人や奴隷たちの、見張りや世話を引き受けることで、この村にお金を落としてもらっていたのだ。
その仕組みを、あたしが壊してしまった。
このままにしておけば、この村に入るはずの固定収入がゼロになる。生活基盤が崩れてしまうだろう。
さすがにそれは申し訳ないので、あたしは一つ提案というか取引を持ちかけることにした。それは、引き続き罪人や奴隷たちの世話をするといったものだ。
レミーゼ直々のお願いに、村人たちはとても喜んでくれた。
その様子を見るに、お金さえ稼ぐことができれば、たとえ雇い主が変わろうが関係ないということなのだろう。
それから、ゲルモが住んでいた家に、アンとドゥ、ついでに他の人たちも匿うことを決めた。
「おぉ……これが噂の、ローテルハルクの聖女様……!」
「本物? 本物か? ……すげえ、あのフレア様と比べても遜色ないほどの美貌の持ち主じゃないか!」
「ああ、しかも聖女の名に相応しいお振舞い……! そしてご慈悲……ッ!!」
罪人たちは、実際に悪事を働いていたものが大半を占める。
しかしそんな彼らも、あたし自ら助けに来た姿を見て感激したのか、揃いも揃って心を入れ替えて真面目に生きていきます、と口にしていた。……結構単純な人たちだ。
「あ、あの……! この度は助けていただきまして、ま、誠にありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
その夜、アンとドゥの二人と一緒に話をする機会を設けた。
あたしは【変身】を解いてトロアの姿を見せようかと思ったけど、正体を知ることで、二人に危険が及ぶ可能性もゼロではない。
考えた結果、あたしは正体を明かさずにいることにした。
「気にしないでちょうだい。あたしは自分のやるべきことをやったまでだから」
あたしが返事をすると、二人は聖女を崇めるような視線を向ける。
この様子では恐らく、レミーゼのことをいい人だと勘違いしていることだろう。
「そ、そうだ……! あのっ、レミーゼ様! 妹は……トロアは、元気でやってますか?」
とここで、アンが心中何よりも聞きたかったことを口にした。
その質問は絶対に来るものだと分かっていたので、あたしは動じずに答える。
「ええ、元気よ。あたしの屋敷の掃除係として頑張っているわ」
「よかった……やっぱりレミーゼ様は聖女様だったんだ……!」
「ふふ。危険だったから今日はあたし一人でここに来たけど、次来るときはトロアも一緒に連れて来るから、楽しみにしておいてちょうだい」
「! はいっ! ありがとうございます!」
本音は、今すぐに一目だけでも会いたいだろう。
でも、アンとドゥは我がままを言わなかった。一度あたしに助けてもらったからか、完全に信頼しているようだ。
……案外騙され易いな。
あたしとゲルモが共謀している可能性もあるんだから、もう少し疑った方がいいよ。
と言っても、あたし的に面倒なことになるだけなので、今のままでいいけどね。
「ねえ、二人とも。もしよかったらなんだけど、貴女たち三姉妹のことを詳しく聞かせてもらえないかしら?」
「もちろんです!」
「何から話しましょうか? なんでも教えますよ!」
「うーん、そうねえ……」
ノリノリの二人に対し、頭を悩ませる。
まずは、あたしが転生してしまったトロアについてと、その周辺事情について教えてもらうことにしよう。
そして、あたしは暫くの間、二人と言葉を交わすのだった。