ゲルモの居場所か行き先をジャバリに訊ねてみると、今いる場所は分からないが、拠点であれば知っていると言われた。
ローテルハルク城から徒歩で二、三時間ほど離れた場所に、名も無き小さな村がある。ゲルモはその村を拠点にしているらしい。
「ええ、ええ。森の中にございます、ですから辿り着くのは至難の業でしょう」
「森の中……その程度なら問題ないわ」
ジャバリは、ゲルモが拠点にしている村が森の中にあると言った。
それは普通であれば見つけにくいのかもしれない。でも、あたしは【ラビリンス】の魔法を使うことができる。
魔法の中には目的地まで誘導してくれるものや、マップを表示してくれるものが存在する。それらを上手く使いこなし、目的地まで一直線で向かうつもりだ。
「ほほ、レミーゼ様。必要でしたら、案内をつけましょう。いかがしますか」
「あたしには必要のないものね」
道先案内人をつけると言われたけど、もちろん断った。
ついて来られたら困る。
「ありがとう、ジャバリ。おかげで助かったわ」
「いえいえ、そのお言葉、胸に大切に、閉まっておきましょう。ええ」
ジャバリに礼を言ってその場をあとにしようとすると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はて? レミーゼ様、よろしいですか」
「構わないわ」
あたしの了承を得たジャバリが、扉を開いた。
すると、そこには兵士姿の男性が二人、姿勢正しく立っていた。
「おい、居たぞ! レミーゼ様だ!」
「おう。レミーゼ様、今お時間よろしいでしょうか?」
これはいったい何事だろうか。
まさか、あたしの正体がバレてしまった……?
「何かしら?」
「はい! 先ほど公爵様から命を受けまして、レミーゼ様を見つけ次第、直ちに城へとお連れするようにとのことです!」
「お父様が……?」
話を聞いてみると、どうやら兵士たちはあたしの行方を捜していたらしい。
アルバータがレバスチャンに指示を出し、兵士たちを動かして、あたしを……レミーゼを城に呼び出していた。
……何故なのか。
思い当たる節が一つ。
「……オットンの仕業ね」
地下牢での一件を、アルバータかレバスチャン辺りに告げ口したのだろう。
アンとドゥの件然り、本当に厄介なことしかしない男だ。
でも、あたしはその命令に従うつもりはない。
幸いなことに、この場にはあたしよりも偉い人はいない。
ローテルハルク領内であたしに命令できるのはアルバータぐらいのもので、あとはせいぜいレバスチャンが小言をぶつけてくる程度だろう。
その代役が一般兵であれば、命令を無視することも容易い。
「お父様には悪いけど……あたし、どうしても外せない用事があるの。だからそれが済み次第、顔を出すと伝えてもらえるかしら?」
公爵令嬢スマイルを存分に見せ付ける。
兵士たちは途端に表情が緩む。これもレミーゼの魅力の成せる業と言えるだろう。
「はい! 畏まりました! ではそのようにお伝えしておきます!」
「ありがとう、感謝するわ」
「か、感謝など……! 感無量です! ううっ!」
いや泣かないでほしい。後ろめたくなるじゃないか。
兵士たちは踵を返し、部屋の外へと出て行く。
再びジャバリと二人になったあたしは、ホッと一息吐いた。
「レミーゼ様。ゲルモの拠点へ、向かわれるのは、これが初めてでしたか?」
「え? ……ええ、そうね」
「ふむ、ふむ。それでございましたら、馬車で行かれるのが、一番効率が良いかと」
馬車移動か……。
確かに、ありかもしれない。
ジャバリから詳しく聞くと、どうやら公爵家専用の馬車があるらしい。
それを使えば道中が楽になるだろう。
……しかし、やっぱりダメだ。
ジャバリは口留めしておくとしても、御者の口が堅いとは限らない。それに加えて、その馬車を使えば圧倒的に目立つだろう。アルバータに行き先がバレてしまうのも時間の問題だ。
「お父様には内緒にしておきたいのよね。だから馬車を使うのは諦めるわ」
なるべくなら、目立つ行為は避けておきたい。
すると、ジャバリが何度か頷き、更に提案してくる。
「では、では、孤児院の馬車では、どうですか?」
「……あるの?」
「ほほ、ええ、ありますとも。レミーゼ様に、使っていただけるのでしたら、はい、箔が付きます」
ジャバリ個人が所有する馬車か……。
その馬車に乗ることができたら、人の目を気にせずに行動できるかもしれない。
先ほど道先案内人を断ったばかりだけど、結局、御者がセットで付いてくることになりそうだ。でもまあ、ジャバリ経由であれば悪くないと考えよう。
「馬車を見せてちょうだい」
「はい、はい。裏へ回りましょう」
再び、ジャバリの案内で孤児院の裏手へと回る。
立派な厩舎に毛並みのいい馬が数頭と、更には馬車を丸ごと格納可能な小屋が建てられてあった。
人身売買で貯め込んだお金で拵えたのだろうか。
だとすると、利用するのもはばかれる。
……ただ、今は一刻の猶予もない。
「馬車、借りるわね」
あたしはジャバリから馬車を借り、ゲルモの拠点へと向かうことを決めた。
ローテルハルク城から徒歩で二、三時間ほど離れた場所に、名も無き小さな村がある。ゲルモはその村を拠点にしているらしい。
「ええ、ええ。森の中にございます、ですから辿り着くのは至難の業でしょう」
「森の中……その程度なら問題ないわ」
ジャバリは、ゲルモが拠点にしている村が森の中にあると言った。
それは普通であれば見つけにくいのかもしれない。でも、あたしは【ラビリンス】の魔法を使うことができる。
魔法の中には目的地まで誘導してくれるものや、マップを表示してくれるものが存在する。それらを上手く使いこなし、目的地まで一直線で向かうつもりだ。
「ほほ、レミーゼ様。必要でしたら、案内をつけましょう。いかがしますか」
「あたしには必要のないものね」
道先案内人をつけると言われたけど、もちろん断った。
ついて来られたら困る。
「ありがとう、ジャバリ。おかげで助かったわ」
「いえいえ、そのお言葉、胸に大切に、閉まっておきましょう。ええ」
ジャバリに礼を言ってその場をあとにしようとすると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はて? レミーゼ様、よろしいですか」
「構わないわ」
あたしの了承を得たジャバリが、扉を開いた。
すると、そこには兵士姿の男性が二人、姿勢正しく立っていた。
「おい、居たぞ! レミーゼ様だ!」
「おう。レミーゼ様、今お時間よろしいでしょうか?」
これはいったい何事だろうか。
まさか、あたしの正体がバレてしまった……?
「何かしら?」
「はい! 先ほど公爵様から命を受けまして、レミーゼ様を見つけ次第、直ちに城へとお連れするようにとのことです!」
「お父様が……?」
話を聞いてみると、どうやら兵士たちはあたしの行方を捜していたらしい。
アルバータがレバスチャンに指示を出し、兵士たちを動かして、あたしを……レミーゼを城に呼び出していた。
……何故なのか。
思い当たる節が一つ。
「……オットンの仕業ね」
地下牢での一件を、アルバータかレバスチャン辺りに告げ口したのだろう。
アンとドゥの件然り、本当に厄介なことしかしない男だ。
でも、あたしはその命令に従うつもりはない。
幸いなことに、この場にはあたしよりも偉い人はいない。
ローテルハルク領内であたしに命令できるのはアルバータぐらいのもので、あとはせいぜいレバスチャンが小言をぶつけてくる程度だろう。
その代役が一般兵であれば、命令を無視することも容易い。
「お父様には悪いけど……あたし、どうしても外せない用事があるの。だからそれが済み次第、顔を出すと伝えてもらえるかしら?」
公爵令嬢スマイルを存分に見せ付ける。
兵士たちは途端に表情が緩む。これもレミーゼの魅力の成せる業と言えるだろう。
「はい! 畏まりました! ではそのようにお伝えしておきます!」
「ありがとう、感謝するわ」
「か、感謝など……! 感無量です! ううっ!」
いや泣かないでほしい。後ろめたくなるじゃないか。
兵士たちは踵を返し、部屋の外へと出て行く。
再びジャバリと二人になったあたしは、ホッと一息吐いた。
「レミーゼ様。ゲルモの拠点へ、向かわれるのは、これが初めてでしたか?」
「え? ……ええ、そうね」
「ふむ、ふむ。それでございましたら、馬車で行かれるのが、一番効率が良いかと」
馬車移動か……。
確かに、ありかもしれない。
ジャバリから詳しく聞くと、どうやら公爵家専用の馬車があるらしい。
それを使えば道中が楽になるだろう。
……しかし、やっぱりダメだ。
ジャバリは口留めしておくとしても、御者の口が堅いとは限らない。それに加えて、その馬車を使えば圧倒的に目立つだろう。アルバータに行き先がバレてしまうのも時間の問題だ。
「お父様には内緒にしておきたいのよね。だから馬車を使うのは諦めるわ」
なるべくなら、目立つ行為は避けておきたい。
すると、ジャバリが何度か頷き、更に提案してくる。
「では、では、孤児院の馬車では、どうですか?」
「……あるの?」
「ほほ、ええ、ありますとも。レミーゼ様に、使っていただけるのでしたら、はい、箔が付きます」
ジャバリ個人が所有する馬車か……。
その馬車に乗ることができたら、人の目を気にせずに行動できるかもしれない。
先ほど道先案内人を断ったばかりだけど、結局、御者がセットで付いてくることになりそうだ。でもまあ、ジャバリ経由であれば悪くないと考えよう。
「馬車を見せてちょうだい」
「はい、はい。裏へ回りましょう」
再び、ジャバリの案内で孤児院の裏手へと回る。
立派な厩舎に毛並みのいい馬が数頭と、更には馬車を丸ごと格納可能な小屋が建てられてあった。
人身売買で貯め込んだお金で拵えたのだろうか。
だとすると、利用するのもはばかれる。
……ただ、今は一刻の猶予もない。
「馬車、借りるわね」
あたしはジャバリから馬車を借り、ゲルモの拠点へと向かうことを決めた。