「……は?」

 その男は、目を疑った……。

 これは何だ?
 ここでいったい何が起きたんだ?

 どうしてここに、奴隷の死体が無いんだ?
 どうしてここに、この屋敷の主が居るんだ?
 どうしてここに、レミーゼ様の死体があるんだ????????

 理解できない。
 理解したくない。

 一歩、また一歩、ゆっくりと、その男は少しずつ近づいていく。
 レミーゼと思しき肉の塊の傍へ……。

 あの奴隷は、魔道具の類は身に着けていなかったはず。
 だからレミーゼ様に危害を加えることはできないはず。

 だが、この状態……これは光魔法によるものだ。
 レミーゼ様は光魔法が得意だったが、まさか自分の魔法を自分で受けてしまったのか?

 魔法による何らかの攻撃を受けなければ、自分で自分を攻撃することはない。
 だとすれば、あの奴隷は魔法を使えるということになる。

 それはどんな魔法だ?
 防御魔法? 隷属魔法? 変換魔法? 反射魔法?

 ……いや、それ已然の問題がある。
 あの奴隷はどうやってレミーゼ様の【隷属】を解いたんだ。

 そもそもの話、これが本物のレミーゼ様だとすれば……アレはなんだ?
 アレは……あの奴隷なのか?

 確かあのとき、この部屋に続く扉の前で顔を合わせた。アレはレミーゼ様の姿形をしていたが、服は奴隷のものを着ていた。

 つまり、アレはレミーゼ様に……成り済ましている?
 他者に化けるような魔法が使えるということか?

 そんな魔法、聞いたことがない。
 だが実際に起きている。ここにあってここに居るのが現実だ。

 ……では、アレは何者なんだ?
 本当に、ただの奴隷だったのか?

 少なくとも、アレがレミーゼ様ではないことは確かだ。

 レミーゼ様が地下牢から連れてきたのは、まだ幼い子供の奴隷……。
 あの子供は……。

「人間……じゃない」

 他者に成り済ますなど、もはや人間とは呼べない。

 ……魔族。
 いや、そんな単純な言葉で言い表すことなどできない。

 では、アレは……あの子供は……。

「人の皮を被った……化物か」