「……うぅ」

 お腹いっぱい……食べ過ぎた。
 さすがは貴族、さすがは公爵家。朝から豪華すぎる食事を存分に堪能することができた。
 おかげさまでお腹がパンパンで……ドレスがキツイ。今すぐ寝間着に着替えたい。ダメかな? ……ダメだよね。

 レバスチャンやテイリー、侍女に見られながら一人黙々と食べるのは、ちょっと居心地が悪かったけど、美味しかったから気にしない気にしない。

 ところで、食事マナーは大丈夫だったのだろうか。
 特に指摘されることはなかったけど……。

「ねえ、レバスチャン。今日の予定を聞いてもいいかしら」

 朝食を取り終えたあと、さりげなく聞いてみた。
 もし、何かしら予定があるのであれば、アンとドゥを助けるのが遅くなってしまう。すると、

「昨日からお楽しみのことでしょう。そう心配せずとも、爺は邪魔しませんぞ」
「あー、……そう? それならいいんだけど」

 レバスチャンの言い方から察するに、昨日今日と二日続けて奴隷の拷問を楽しむつもりだったのだろう。

 レミーゼ、ホントに恐ろしい子……。

 でも、そのおかげで、あたしは今日一日を自由に動くことができる。
 拷問好きな公爵令嬢様に心から感謝だ。

「但し、くれぐれも目立たぬよう、十分にご注意ください。よいですな?」
「はいはい、分かっているわ」

 やり過ぎには注意と、レバスチャンから釘を刺される。
 心配してももう遅い。レミーゼは既にやり過ぎたあとだ。

 というわけで、まずは何をすべきか考えよう。
 って、今のあたしがやるべきことは一つしかない。

「テイリー、あたしは今から地下牢に行くから」
「地下牢に……ですか? もしや、もう奴隷を壊してしまったのでは……」

 替えの奴隷が欲しくなったと思われたのだろう。
 だから再び地下牢に足を運び、新しい奴隷を作る。それがテイリーの予想だ。

「ええ、そうよ。あの奴隷さ、小っちゃかったじゃない? だからすぐに動かなくなっちゃったのよね」

 嘘を吐く。
 実際に動かなくなったのはレミーゼの方なのだが、それはもちろん口にすることができない。あたしだけの秘密だ。

「なるほど、分かりました。じゃあ俺は……掃除でもしておきます」
「掃除? ええ、頼んだわね」
「はい!」

 一人で行動できるのは助かる。
 テイリーはレミーゼの直属兵なので、たとえどんなことがあろうとも、ほぼほぼ傍を離れることがない。推しと二人きりで居るのも悪くないけど、今はそんなことを言っている場合ではない。だからこれは千載一遇のチャンスだ。

 この隙に、アンとドゥを救い出してみせる。
 そしてあたしもレミーゼの姿からさよならしてやるんだ。

 このときのあたしは、まだ何も気付いていなかった。
 テイリーが言っていた掃除の意味を……。