それはまだ、あたしが幼いころの記憶……。

 小学生のとき、あたしは誰とも馴染むことができずに独りぼっちだった。

 友達なんていない。
 早く家に帰って安心したい。そんな日々を送っていた。

 そんなある日のこと。
 ネット上で、あたしはとあるゲーム会社が新規IPのβテスターの募集をしているのを見つける。

 それはただの興味本位だった。
 どうせ受かるはずがないと思いながらも、せっかくだからと応募してみた。

 それから数週間が過ぎたころ、ゲームに必要な機器一式が自宅に届いた。

 ――【ラビリンス】。それが新規IPの名前だ。
 まるで迷宮の中に迷い込んでしまったかのような、どこまでも続く壮大な世界観が売りのVRMMOだった。

 試しに遊んでみて、あたしはすぐに【ラビリンス】の虜になった。

 一人でも全く問題ない。この世界には……【ラビリンス】の中には、無限の可能性が広がっている。この世界を生きるあたしは、自由そのものだった。

 とにかく遊んだ。毎日時間を忘れて遊んだ。
 友達と一緒に遊ぶことのなかったあたしにとって、【ラビリンス】で作ったもう一人のあたしは最高の友達だった。

 あのとき、βテスターに応募して本当によかった。
 これさえあれば、他には要らない。そう思えるほどだった。

 そしてもちろん、このときのあたしは【ラビリンス】が終わることを、まだ知る由もなかった……。