きっと、七海はこのメッセージを燈真君に送った後に私に電話をしてきたんだ。

悲痛な彼女のメッセージを見て、燈真君は自分の無力さに絶望しただろう。

私でさえそうなったのだから、幼なじみである彼は、想像もつかないほどの絶望だったと思う。

それと同時に、七海を裏切った婚約者とその親友への怒りも生まれた。

……燈真君は最初からすべての事をわかっていて、今まで過ごしてきた。

知らなかったのは私だけ……。

私は静かにドアを閉めると、パソコンケースを抱えてリビングを出る。

玄関脇の部屋からはまだ燈真君の電話をする声が聞こえてきて、私はそのまま音を立てずに靴を履いて外へ飛び出した。

さっき私たちが降りてからエレベーターは動いていなかったようで、ボタンを押すと扉が開いた。

パソコンをギュッと抱え、体が震えるのを何とか鎮めようと試みる。

でも、震えは止まらなかった。

だって、知ってしまったから。

あなたが私に、1ミリも愛情を向けていなかったという事を。

好きだなんて、最初から嘘だった。

可愛いだなんて思ってもなかったくせに。

雨はさっきよりも更に強くなっていたけれど、構わずに飛び出した。

降り注ぐ雨粒と涙が一緒になって後から後から流れ落ちるけれど、もはやどちらなのかわからない。

タクシーを拾って、私は七海の実家へと向かう。

パソコンを返さないといけない。

呼吸を整えようと肩で息をしながら、パソコンケースを胸に強く抱く。

その時、スマホの電子音が鳴り響いた。

燈真君がかけてきたのかと思って、ビクッと体が硬直する。

バックから取り出すと、相手は田辺さんだった。


「も、もしもし……」

『あ、黒澤さん。スノーライツ出版の田辺です。今、大丈夫でしょうか?」

「あ、はい……」


相手に見えないのに、動揺しているせいか電話をしながら何度も頷いてしまう。


『先ほどは本当にありがとうございました。あの後すぐに神崎を連れて上層部へ行き、雑誌の回収とお詫びを発信する事が決まりました』

「足止めしてくださってありがとうございました。おかげでこちらも助かりました」

『やはり、相手のところへ行きましたか』