咄嗟についた嘘だけど、本当の事を話したら燈真君が何をやるかわからないから。

この嘘はいつかバレてしまうだろうけれど、その時にはもうあの二人は出版社にはいないと思う。

時間稼ぎにしかならないけれど、今はこれでいい。


「……そっか。七海の名前も載せて欲しかったな」

「うん。それは私も言ってきた。……あれは七海が命を懸けた企画だから」


私の言葉に燈真君はうんうんと頷きながらソファに座る。

どうやら上手く誤魔化せたみたいだ。


「あ、ごめん。何か飲む?ミルクティーならあるんだけど」

「そんな、おかまいなく……」

「疲れた時は甘い物が一番だから」


そう言って、燈真君はグラスに氷を入れてミルクティーを作ってテーブルに置いてくれる。

国民的アイドルが作ってくれたミルクティー、もったいなくて飲めない……。

っていうより、燈真君ってミルクティーを飲むっけ?


「推しが作ったミルクティー、もったいなくて飲めないって?」

「声に出てた?!」

「いや、柚乃ちゃんの顔に出てる」


私の顔を指さして燈真君が笑う。

すぐ顔に出て、読まれてしまうとか……いつまでたっても成長しない。

タオルをかぶって顔を隠すと、燈真君が立ち上がって私の近くに来てタオルでわしゃわしゃと髪を拭く。


「もったいなくて飲めないとか思わなくていいよ。飲みたくなったらいつでも作るから」


いつでも作るから……。

七海の件が終わっても、この関係を燈真君は続けていくつもりなの?

燈真君に返事をするとは言ったけれど、その前に七海から最期に電話があった事を打ち明けなければならない。

タオルを外して、顔を上げた。


「燈真君、あの……」

「あ、ごめん。ちょっとマネージャーから電話きた。ゆっくり飲んでて」


ポケットの中からスマホを取り出して、テーブルに置かれたミルクティーを指さすと、燈真君はリビングを出て扉を閉めると、玄関の方へ行ってしまった。

玄関脇にもひとつ部屋があったので、おそらくそこに入ったのだろう。

タオルをたたんでテーブルの脇に置いて、改めて部屋の中を見回す。

この部屋に七海は来た事があるのかな。

あるとしたら、部屋のインテリアも考えてくれていそうだけど、そんな様子は見られなかった。