燈真君の家は、芸能人が多く住んでいると言われているセキュリティがしっかりしているマンションだった。

一般市民の私が一生かかっても住むどころか、踏み込む機会など無い程の物で、車を降りて足がすくんでしまったほど。

地下駐車場からもうセキュリティは万全で、マスコミに激写される心配はとりあえず無さそうだった。

それでも一応、顔を隠すように俯きながら燈真君の後をついていく。


「本当に、用心深くて助かるんだけど」

「推しに女の影がちらつくのは、許せないんで」


エレベーターの中で、燈真君に言われて返すと、彼はおかしそうにクスクスと笑った。


「信念がブレないね」

「ブレブレだよ。信念ブレないなら、ここに来てないし」

「大丈夫。柚乃ちゃんがここにいるのは、白鳥透真の家だから」


エレベーターの扉が開き、燈真君が降りる。

私も降りて、少し距離をあけて彼の後を歩く。

一番端の部屋の前で止まり、燈真君はカードキーを当ててドアを開けた。

私服がおしゃれで、スニーカー集めが趣味だという燈真君にしては玄関に何も置いてなくて、スッキリしていた。

リビングに通され、物珍し気に部屋の中を見回す。

ほとんど家にいないせいか、生活感が全くなく、必要最低限の家具しか置かれていない。

国民的アイドルだから、帰ってきても寝るだけの生活をしている気がする。


「風邪ひくからお風呂入ってきなよ。服、貸すから」

「えっ?!いや、大丈夫!」

「じゃあ、せめてタオルでしっかり拭いてよ。ほら」


バスタオルを渡され、私は持っていたパソコンケースを置き、頭をタオルで拭く。

燈真君はサングラスを外して胸ポケットに入れると、ため息をついた。


「……何かあった?」

「えっ?」

「七海の出版社に行ったって事は、そうでしょ?発売された雑誌にクレームつけに行ったとか?」


燈真君はそう言って、カウンターの上に置いてあった雑誌を私に見せる。

七海の企画のはずだった、『恋するスイーツ』が掲載された雑誌。


「七海の名前がどこにもなくて。七海の出版社に行ったっておばさんから連絡をもらったから、多分、この事で行ったんだろうなって」

「……そう、行ってきた。そうしたら……亡くなった後に仕事を引き継いだ人だった」


私はそう言って笑顔を作る。