「……柚乃、謝っても許されないけれど、本当にごめんなさい。同期なのに、こんな奴だったなんて見抜けなくて……」

「そんな、綾音先輩が謝る事じゃ……っ!」

「この件は責任もって私が上に報告するから。厳罰をお願いするつもりだけど……七海ちゃんにお詫びができなくて本当にごめんなさい」


綾音先輩が頭を下げながら肩を震わせている。

辰巳さんは床に転がったまま、突っ伏して情けない声を上げて泣いていた。

いたたまれなくなって、私は拳を作って俯く事しかできなかった。


出版社を出ると、雨が降り出していた。

傘を持っていなかったので、七海のパソコンを守るようにケースを抱えてタクシーを拾う。

タクシーに乗り込んだら、一気に疲れが出て力が抜けてしまった。

色々な事がありすぎて、もう何も考える気力がない。

真相がわかったけれど、燈真君にとてもじゃないけれど話せない。

だからって、話さないわけにもいかない。

おじさんとおばさんに話したら、おそらく真相は彼に伝わるだろう。

どうしたらいいかな……。

悩んでいるうちにタクシーは自宅前に到着した。

さっきよりも雨が強くなっていて、パソコンケースを守るように抱えて慌ててマンションのエントランスに駆け込む。

髪からぽたぽたと滴り落ちる雫。

オートロックを解除しようと、バッグの中にある鍵を探していた時だった。


「よう」

「……えっ?」


後ろから声をかけられ、驚いて振り返る。

そこには、サングラスをかけた燈真君がいて、更に驚いてしまった。


「燈真君……?どうして……」

「おばさんから連絡もらったから。柚乃ちゃんが七海のパソコンを持って、七海の勤めていた出版社に行ったって言ってたから。だからスノーライツ出版の前で待ってたんだけど、柚乃ちゃん出てこないから……」

「……自分の社に戻ってたの」

「ずぶ濡れじゃん。……とりあえず、話がしたいから行こう。柚乃ちゃんが風邪ひいちゃう」


私の手を取り、歩き出す燈真君。

再び外に出て、止めてあった車の後部座席のドアを開ける。

パソコンを抱えながら乗ると、ドアがバンッと閉まった。


「とりあえず、俺の家でいい?」

「……えっ?」


燈真君の発言に耳を疑った。

俺の家……って、燈真君の家……?

国民的アイドルの燈真君の家に、私を招き入れるなんて!


「燈真君、ちょっと待って……」

「柚乃ちゃんの家よりかは俺の家の方がいいでしょ?柚乃ちゃんずぶ濡れだし、着替えないと風邪ひくよ」

「けど……!」

「何もしないから心配すんなって」

「そういう事、心配してるわけじゃないんだけど!」


言い返すと、運転をしながら燈真君が笑った。

笑い事じゃないのに。

そうは思うものの、今日はひとりでいたくなかった。

ひとりでいたら、多分、怒りで気が狂ってしまうだろうから。

でも、燈真君と一緒にいれば、大丈夫かもしれない……。

何があったのかは決して悟られてはいけないけれど。

目を閉じて、次に開けた時、今までの事がすべて夢であったらどれだけ良かった事か。

涙で濡れた世界は、絶望だけが広がっていて、永遠に闇から抜け出せる気がしない。



七海はそんな世界から飛び出して、今は幸せに笑えているのだろうか。