「アンタ……!副編集長に就きながら、何やってんだよ!企画書は汗と涙の結晶だって、アンタは入社してからずっと言い続けてたじゃない!それを……私利私欲で人から盗んだ挙句、彼女を切り捨てて他の女に乗り換えるとか……ふざけんな!」


ヒートアップした綾音先輩は胸倉を掴んだまま、辰巳さんを激しく揺さぶる。

私よりも彼女の方が涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。


「俺は、本当に七海を大事に想ってたんだ……。だけど、何でもできて性格も良くて、綺麗で……そんな七海を幸せにする自信がなくなって……。マリエが、妊娠したって言うから、責任取らなきゃって、その……」

「戯言はもう聞きたくないです。すべてはあなたの弱さのせいであって、七海を言い訳に使わないで」

「すいません……」

「謝ったって、七海は戻ってこない。私は彼女の最期の言葉が耳からずっと離れないんですよ?あなたは、子どもできたからってそっちを選んで、神崎マリエに盗んだ企画を渡して、今日までのうのうと過ごしてきたんでしょう?雑誌を見てそれであなた達は満足できました?あれは……私が七海に同行して一緒に作り上げた、七海の企画です!私の思い出まで汚さないで!」


涙がボロボロと零れ落ちる。

ただ辰巳さんは、神崎マリエと同じように「すいません」と繰り返すだけで話にならなかった。

こんなつまらない男のせいで七海は絶望して自殺した。

情けなくて情けなくて仕方がなかった。


「この件は決して許されないよ。他社の企画とはいえ、柚乃のように非公式に協力するならまだしも、企画を盗む共犯になるなんて言語道断!上に報告する」

「綾音、ちょっと待って!そんな……同期の仲じゃないか……」

「じゃあ、アンタは汗水流して作り上げた企画を他の人に盗まれて、それがその人の功績になっても何も言わないの?許せるの?」

「いや……」

「アンタたちのせいで、人が死んでるんだよ?その関係者の前で、私に言った事と同じ事が言える?実際、柚乃に対して謝罪しておきながら往生際が悪いし、吐き気がするんだけど」


綾音先輩は掴んでいた辰巳さんの胸倉をグッと引き寄せた後、思いっきり突き飛ばすように離した。

ガタガタと大きな音を立てて、辰巳さんは椅子ごと床に倒れこんだ。

こんな男、七海の方から捨ててやれば良かったのにと思うほど、くだらない男で、どうして傍にいた燈真君に目を向けてくれなかったんだろうって思ったら涙が止まらなかった。

兄弟みたいな関係だったかもしれないけれど、気付かなかっただけで、幸せになれる可能性は無限にあったのに。