亡くなった後でも、気にかけてくれて、最高の上司の下で仕事ができた事は七海も感謝していると思う。

扉が閉まり、エレベーターが下降する。

私はスマホを取り出し、綾音先輩に電話をかけた。


「お疲れ様です。綾音先輩、まだ社にいます?……実は、お話したい事があります。辰巳さんの同席もお願いしたいのですが」


電話をかけると、有休の私からの連絡で綾音先輩は驚いていた。

でも、何かを悟ったのか理由は聞かず、承諾してくれた。

辰巳さんの同席もお願いしたけれど、同席して欲しいのは綾音先輩であって……。

彼は私が真相にたどり着いた事を驚くだろうか。

それとも、しらばっくれて知らないふりをする?

……残念だけど、もう逃げられないから。


「え、柚乃先輩?!」


エレベーターが一階に着いて、降りたところで乗り込もうとしていた瞳と会った。

私の姿を見て、かなり驚いた表情を浮かべている。


「どうしてうちに……?」

「……理由は神崎マリエからどうぞ。瞳の言う通り、人の企画を盗むのは恥だね。……真相を調べようとせず、好き勝手に面白おかしく社内に触れ回る人も、出版業界の恥だよ」


冷たく言い放つと、瞳は困惑した顔で私を見つめる。


「え、それはどういう意味ですか……?」

「だから、戻って神崎マリエに聞くといいよ。私は、七海の潔白を証明しに来ただけだから」

「七海……?柚乃先輩、七海先輩と……」

「桐山七海は私の親友だよ。七海の自殺に拍車をかけたアンタの事を私は許さない」

「じ、自殺……?」


自殺と聞いて、瞳の表情が凍り付いていく事に気付いたけれど、私はそのまま立ち去った。

どれだけ、人の事を傷つけてきたのだろう。

面白おかしく人の事を触れ回って、それでまさか人が死ぬとは思わなかったとでも?

奥歯をギリッと噛みしめて、私は出版社へと向かった。



「柚乃!有休だったんじゃないの?話があるって、いったい何よ……?」

「急にすみません、お時間とっていただきありがとうございます」


編集部に入ると、綾音先輩が心配そうに駆け寄ってきた。

私の姿を確認した辰巳さんが、自席から立ち上がる。

いつものように優しそうな笑顔でこちらに近づいてくる。


「綾音に話があるって?俺にも同席して欲しいって、何か深刻な相談事?」


さわやかな装いも、本性を知った今では不快にしか感じられなかった。