「社内恋愛禁止のはずだけど、神崎は一体誰と……」

「社内の人じゃないです。……実は、私の彼は七海の……その、元カレで……」

「元カレ?!」


言いにくそうに打ち明けた神崎マリエに向かって、私は思わず身を乗り出してしまった。


『……私、ずっと裏切られてたみたい。……柚乃、今までどうもありがとう……』


私の留守番電話に入っていた七海の悲痛なメッセージが頭の中でリピートする。

元カレなんかじゃなくて、きっと、それは……。


「七海の元カレがどうやったら七海のUSBを盗めるの?ねえ、本当の事を言ってよ!」

「ごめんなさい……っ!私が妊娠したって嘘ついたから、七海と別れて私を選んでくれたんです!」


私の剣幕に押されたのか、怯えたように神崎マリエは白状した。

……七海はとんでもないクズ男と知らずに付き合っていたんだ。


「彼は私の大学の先輩で、サークルも一緒だったんです。ある日、七海と会社の帰りにご飯を食べていたところ、彼と再会して、それがきっかけで七海は彼と付き合う事になったんです。……でも、私だって彼の事が好きだったから、諦めたくなくて。七海との結婚を決めたって言われたんですが、本当に七海を幸せにできるのか不安になったっていう彼を言いくるめて、関係を持ったんです……」


……七海は、こんな身勝手な人たちのために自分の命を絶ったっていうの……?


「それで、プロポーズをしたって話を聞いて、妊娠したって嘘を言ったら、七海と別れて私を選んでくれるって……。す、すみませんっ!会社は辞めたけど、まさか自殺だなんて……!こんな事になると思わなくて……っ!」


泣きながら頭を下げる神崎さん。

その謝罪は七海には届かないし、何の意味も持たない。


「じゃあ、USBはその男が……?」

「……はい。食事に行った時に席を外した七海のバッグからUSBを盗ったって……」


瞳の言葉を聞かせてやりたい。

編集に携わるなら、プライドを持って命を懸けろって、弊社の恥だって……。

七海の自殺の引き金を引いたのは……。


「……ちょっと待って?……神崎さん、私がさっき自殺した七海の親友ですって名乗った時、あなた、七海、自殺だったの……?って言いましたよね?七海の死は田辺さんしか知らなかったはずですが……」

「僕は誰にも話していないし、奥さんにすら言ってないよ。病死だと思ってたから、自殺って聞いて、驚いて……」

「さっきの反応から、神崎さんは七海が亡くなった事を知っていましたよね?なぜですか?七海の死を知っているのは田辺さんの他は七海に近かった私と、彼女の幼馴染だけですが……」

「……彼が会社の後輩に聞いたそうです。この企画は生前の彼女の最後の仕事だった……って」


神崎さんの言葉に全身鳥肌が立ってしまった。

こんな事……こんな事ってあるのだろうか。

いや、そんなはずはない、だって、彼はそんなクズ男なんかじゃない。

いつだって仕事ができて、部下からも上司からも同期からも絶大な信頼を寄せられていて、誰のフォローにも回ってくれる気遣いのできる人が、七海を捨てるようなクズ男なわけがない……っ!