「神崎……いい加減にしろ。これだけの証拠を見せられて、お前は何も出さないで、言いがかりだとずっとわめくつもりか?」

「編集長!私は……っ!」

「……黒澤さんの言う、チェリータルトの店は僕の奥さんが桐山さんに勧めた店だよ。僕の奥さんと桐山さんは友人だった。君らの言う僕と桐山さんの不倫関係というバカな噂も僕にとっては名誉を傷つけられてる事になるんだが、それについて神崎はどう思ってんの?」

「私は、別に……それは、笹井が勝手に言ってた事で……」


神崎さんの声がだんだん小さくなっていく。

やっぱり瞳が面白おかしく、社内に触れ回っていたんだ。


「いい加減にしないか、神崎!……黒澤さん、今回の事は大変申し訳ございません。雑誌はすぐに回収し、お詫びを掲載させていただきます。桐山さんのご実家にも謝罪をしにいきます。どうか今回の件はこれ以上どこにも出さないでいただけませんか?神崎にはそれ相応の処分を下しますので」

「田辺さんに頭を下げられても困ります。神崎さん、さっきから自己弁護ばかりですけど、口ばかりでなく物的証拠を出してください。さっきから話が一ミリも進んでないです」

「……申し訳ございませんでした。私が、七海の企画を盗みました」


これ以上、覆すのは無理だとようやく理解したのか、神崎さんは頭を下げた。

別に神崎マリエのこの姿を見たかったわけじゃない。

頭を下げる彼女を見ても、気持ちはスッキリするどころかむしろ悲しくなっただけだった。

こっちは証拠をがっちり固めてきたというのに、神崎マリエは口ばかりで、正直拍子抜けした。

こんな人に傷つけられて、七海は人生を無駄にした……。


「……神崎さんは、七海と高校時代の友人でしたよね?なのに、何でこんなことを……?」

「……友人なんかじゃないですよ。入社式で会って本当にびっくりしました。高校時代と変わらず、七海はいつだって誰からも好かれて、人気者で。私はそんな彼女に勝ちたかっただけなんです。だから、今回の企画会議で七海以上の企画を準備しようと思っていたんです。……でも、何も浮かばなくて。それで、私の彼に相談したら、彼が七海のUSBを盗んできて……」

「ちょっと待ってください。……神崎さんの彼が七海のUSBを盗んだんですか?え、どうやって?」


鼻をすすりながら話す神崎マリエの話に割って入る。

神崎マリエの彼氏が七海のUSBを盗んだという事は、この社内の人間という事になる。

でも、瞳の話だとスノーライツ出版は社内恋愛禁止のはずじゃ……?

そう思って、田辺さんの方を向く。