「神崎さん。問題をすり替えないでください。七海と田辺さんの不倫関係の話は後にしてくれませんか?私が聞いているのは、あなたが七海から企画を奪ったくせに、七海があなたの企画を盗んだと大騒ぎして、社内に広めて七海の信用を落とした事と、名誉を傷つけた事です」

「だから、何を根拠に……」

「これ、七海のパソコンです。企画のためにまとめたデータが入ってます。わかります?最終更新日を見てください」


パソコンを起動し、画面を二人の方へ向ける。

神崎さんと田辺さんが同時にパソコンの画面にくぎ付けになった。


「最終更新日は企画会議よりも前です。フォルダーの中身を見ればわかりますが、神崎さんが盗んだUSBのデータよりも詳細なデータが入力されています。USBは書類印刷するために簡潔に作成された物なので、違いは一目瞭然だと思います。更に、この取材用ノートには七海の手書きでもっと細かく記されています。このノートのおかげで、インタビューを受けたお店の方が七海の事をよく覚えていました」

「だから発案は私で、そこから七海が勝手に横取りして進めていっただけで……」

「では、あなたが取材したデータを見せてください。それだけじゃ七海が盗んだという証拠にはなりませんし、雑誌を見る限り、七海のデータをあなたが盗んだという事が証明されているってわかりませんか?」


しどろもどろの彼女を畳みかけるように言葉は止まらない。

テーブルの上に置かれた神崎さんの手は震えていた。


「ちなみに、私はこの企画の中で一番のお気に入りがチェリータルトです。このお店、知ってます?」

「あ、当たり前でしょ!私が見つけたんだからっ!」

「では、あなたがインタビューをしたというオーナーの名前を教えてください。名刺をいただいてるはずなので、覚えてますよね?」

「そんなの……いちいち覚えているわけないじゃない!」

「覚えてないんじゃなくて、知らないだけですよね?オーナーの方は、桐山さんからインタビューを受けたと言って、名刺を見せてくださいました。雑誌の発売日が決まったら連絡するという約束も七海はしていたそうです。ここまで話してもまだ認めませんか?」


私の言葉に、神崎さんはドンッとテーブルをたたいて立ち上がる。


「そんなの、何の証拠になるんですか?!あなたの勝手な作り話にしか聞こえないんですけど!」

「……往生際が悪いし、ここまで頭が悪いと思いませんでした。正直、レベルが高いと思っていたのに、こんな間抜けな嘘に騙される編集部の程度も疑います」

「はあっ?!名誉棄損で訴えるわよ!」

「お好きにどうぞ。けれどあなたのやった事は全て然るべきところに出させていただきます。そうなったらあなたはもう出版業界で生きていけないですよ。……人の企画を盗む人間と誰が一緒に仕事をしたいと思います?」


勢いよく私に怒鳴り散らしたくせに、動揺しているせいで目が泳いでいる。

田辺さんがドンッと拳でテーブルを殴った。