「失礼します。神崎です」

「はい、どうぞ」


彼女が来る前に聞いておきたかったけれど、来た事で遮られてしまった。

非は何もないのだろうけれど、妨害されたようで彼女に対しての印象が更に悪くなる。

神崎さんが会議室に入ってきて、田辺さんの隣に立つ。


「神崎マリエです」


私に一礼する彼女は、やはり七海の高校時代の友人と同一人物だ。

卒業アルバムの個人写真に付けられた×マークを思い出して、少し身震いしてしまった。

神崎さんは、私を見て不思議そうに首をかしげていたが、テーブルの上にある雑誌を見て、目を見開いた。


「初めまして。黒澤柚乃と申します。……自殺した桐山七海の親友です」

「えっ?七海、自殺だったの……?」

「え、桐山さん、病死だったんじゃ……?」


私の言葉に神崎さんだけでなく、田辺さんも驚きを隠せなかったようだ。


「……田辺さん、嘘をついていてすみませんでした。葬儀の時には話せなかったんです。七海は自殺です」

「そんな……桐山さんが……」


田辺さんがショックのあまり、肩を震わせて俯き、嗚咽を漏らし始めた。

この姿を見て、流石に田辺さんを疑う事はもう難しい。

彼にとって、七海は優秀な部下であり奥様の大切な友人だったという事が痛いほど伝わってくる。

身勝手で七海を切ったとはどうしても思えなかった。

そんな田辺さんの隣で青ざめた顔で、震えている神崎マリエ。


「単刀直入に言いますね。この雑誌の、恋するスイーツ特集を担当したのは神崎さんじゃないですよね?」

「……な、何を突然言うんですか?!七海の親友だから彼女をかばうんですか?!これは私が……」

「いいですよ。あなたの企画だとおっしゃるのなら、証拠を出してください。USBを持っていたからと編集部内の人間は騙せたようですけど、私はそれ以上の証拠を持ってます。ちなみに、私は七海と一緒にこの企画のためにカフェ巡りもしていますので、あなた以上にこの企画については詳しいですよ?」


冷ややかに言い放つと、神崎さんは返す言葉がないのか、私をただ睨みつけるだけだった。

嗚咽を漏らしていた田辺さんが、信じられないという表情で顔を上げ、神崎さんを見つめる。


「神崎……まさか、本当に……?桐山さんの企画を盗んだのか?」

「編集長!何を根拠に七海の肩を持つんですか?!……やっぱり、七海と不倫関係だったという噂は本当だったんですか?!」


田辺さんの問いかけに、嚙みつくような勢いで怒鳴り返す神崎さん。