「お時間をとっていただき、ありがとうございます」

「いえ。どうぞおかけになってください」


通された会議室。

田辺さんに席を勧められ、私は一礼して座る。

私は持ってきた七海のパソコンをテーブルの上に出す。

そして、発売されたばかりの雑誌も出した。

それを見た田辺さんは深いため息をつく。


「黒澤さんからお電話をいただいてから、この企画について編集部で聞いてみました。実はこの企画、桐山さんが同じ編集部の神崎の企画を盗んだとして企画会議の最中に問題になったという話があがってきました初耳だったので驚いたのですが……」

「逆ですよ。七海の企画が神崎マリエという人物に盗まれてます」

「……神崎が?」

「企画会議に田辺さんがいない事をいい事に、七海は企画泥棒という汚名を着せられました。七海が企画したという証拠はここにあります。七海はすでに亡くなっていますが、名誉だけは回復していただけないでしょうか」


私はパソコンに触れながらお願いをする。

田辺さんの眉間にしわが寄り、彼はこめかみに手を当てる。

難しいと言うだろうか。

それとも、亡くなった人の事だからとスルーするだろうか。


「では、神崎をここに呼んでもいいですか」

「……はい、お願いします」


田辺さんは私の答えを聞くと、立ち上がって内線で神崎マリエを呼ぶ。


「すぐに来るそうです」

「……はい。じゃあ、神崎さんが来る前に一つだけいいですか?」

「何でしょう?」

「七海の交際していた男性を知りませんか?」

「はい……?」


私の質問が雑誌の企画とは全く関係のないものに驚いたようだった。


「突然、すみません。奥様と七海の交流があったのなら、何かご存知ではないかと思いまして……」

「いや、黒澤さんの方がご存知じゃないですか?僕は一度しか見た事がないですよ」

「えっ?会った事があるんですか?!」

「あ、はい。たまたま、会社の前で。桐山さんが退社した後に僕が退社したのですが。会社の前に彼が迎えに来ていたようで、その時に見ましたけど……」

「その人は……」


どんな人だったのか聞こうとしたら、ドアがノックされた。