七海はバックアップを取っていなかったって事?

あんなに私にバックアップを取る事を勧めていたのに?

……七海の事がよくわからなくなってきた。

あんなに一緒にいたのに、七海の足跡を辿れば辿るほど、知らなかったことが山のように出てくる。

本当に私は七海の親友だったのかな……もしかしたら、私だけが親友だと思っていたのかな……。

考えていたら、悲しくなってきた。

こみあげてきた涙を振り払うかのように、傍にあったパソコンケースを何気なく開けて私は驚いてしまった。


「……えっ?」


ケースの中は空っぽだと思っていたのだが、パソコンの他にタブレットも収納できるようになっていて、そこにタブレットが入っていた。

ノートパソコンの他にタブレットも持ち歩いていた……?

私は首を傾げながらタブレットを取り出し、起動する。

けれどタブレットにはパスワードは必要なようで、それ以上進むことはできなかった。

もしかして、バックアップはノートパソコンではなく、このタブレットにあるんじゃ……?


『あなたの思い出は?』


パスワードのヒントとしてそんなメッセージが表示されている。

七海の思い出って一体何なんだろう?

彼の名前をパスワードにしていたら完全に詰みだけど……。

少しの間、タブレットに表示されている、パスワードの文字とにらめっこをしていたけれど、これといったワードが出てこなかった。

場所?食べ物?人物?それとも、作品名?

七海が設定していそうなワードを探すため、パソコンの検索画面を開く。

お気に入り登録しているスノーライツ出版のホームページを開いてみた。

会社概要とか役員紹介とか、どこの出版社のホームページを開いても書いてありそうな内容が並んでいる。

その中で見つけた項目にひかれるように、クリックする。

それは、各部署で働く社員のインタビューページだった。

七海の部署をクリックしてすぐに私は目を見開いた。

そこには神崎マリエの名前がある。

インタビュー記事をスクロールで飛ばしていくと、最後に神崎マリエの画像が出てきた。

自分が担当している雑誌を手にカメラに向かって微笑んでいる。


「……あれ?この人、どっかで……」


見た事があると思いながら、目線をパソコンから本棚に移したと同時に私はその場から立ち上がっていた。

七海の卒業アルバムだ。

ガラス戸を開け、私は七海の高校の卒業アルバムを取り出す。