おばさんに頭を下げると、階段をのぼって二階の七海の部屋へ行く。

写真を見に来た時に気が付いていればと、悔やまれる。

あの時は、卒業アルバムの事で頭がいっぱいだったから。

とはいえ、七海に詰めが甘いと笑われてしまいそうだけど。

七海の部屋に入ると、机の上にパソコンが置かれていた。

おばさんがコードを繋いでくれたおかげで電源を入れると、すぐに起動した。

デスクトップにいくつかのフォルダが表示されていたけれど、『恋するスイーツ』というフォルダも見つけた。

バックアップを取ったというより、自分のパソコンで作成したデータが残っていたという事だ。

おそらくUSBに入っていた内容と同じ物だろう。

フォルダーを見ると、スイーツの画像だけでなく、企画に取り上げたいメインのスイーツの詳細なデータがまとめられた物が入っている。

フォルダーの最終更新日もあるので、企画会議よりも前であれば確実な証拠となるのではないか。

私はバッグの中から手帳を取り出し、田辺さんから頂いた名刺を取り出す。

スマホをタップして、名刺に書かれている電話番号にかけた。


「あ、お忙しいところ恐れ入ります。私、桐山七海の友人の黒澤柚乃ですけれども……」

『お久しぶりです。どうかされましたか?』

「実は、お話したい事がございます。近日中にお時間をいただけないでしょうか」

『わかりました。……ちなみに、桐山さんの件ですよね?』

「七海の事もそうなんですが、昨日発売された雑誌の企画について、お伺いしたいんです」

『恋するスイーツ?』

「……そうです」


私が返事をすると、田辺さんは電話の向こうで黙り込んだ。

田辺さんは企画会議での騒動の事を知らないって、瞳は言っていた。

神崎マリエが騒ぎを大きくしたくないっていう事で、編集長である田辺さんには報告がなかったとか……。

編集長不在の時に騒ぎが起きてその報告が上司にいかないのも変な話だけど。

結局、上手い事を言って、神崎マリエが自分の不利にならないように周りを動かしたに違いない。

被害者を装って。


『あの企画は、本当によくできた企画だと思った。俺はてっきり桐山さんの企画だと思ってたんだけど』

「えっ?」


田辺さんの言葉に驚いて、聞き返してしまった。