叶う事のない、願い。

できる事なら、私もまた七海と一緒に来たかったよ。

店員さんに名刺を返し、お礼を言うと、彼女も会釈をして持ち場に戻っていく。

名刺だけじゃなくて、七海の人柄できっと覚えていてもらえたんだ。

おそらくこのカフェだけでなく、取材した全てのお店に七海の名刺が置かれているだろう。

だけど、名刺が全てお店にあったからと言って、それが直接的な証拠になるかって言えば、まだ弱い気がする。

企画会議の後に慌てて自分の名刺を配ったのだろうと言われたら、七海ではない私には反論が難しいかもしれない。

この取材用ノートがあっても、部外者の私が論破できるとも思えない。

ノートを見つめながら、何か策はないかと頭を抱えて考えてみるけれど、案が浮かばない。

とにかく、神崎マリエがどういう人物なのかという事も調べないと。

瞳に聞くわけにはいかないから、近いうちに田辺さんに連絡して相談してみようかな……。

スマホのカメラを起動して、チェリータルトにカメラを向ける。

カシャッと音がして、私は画像の確認をした。

またひとつデータが増えた。

前回、バックアップしたのはいつだったっけ……。


「……っ」


私は何で今まで気づかなかったのだろう。

七海のスマホは浴槽で水没して、電源が入らない状態となってしまった。

修理してもデータが戻る保証はなく、何の手掛かりもなく七海の彼を探し出すなんて気が遠くなる事だと思っていた。

だけど、七海は常にバックアップをとっていたはず。

だから、パソコンを調べれば、バックアップの内容が見られるのではないか。

何でこんな大事な事にもっと早く気が付かなかったんだろう。

もし、そのデータがあれば、企画が七海の物だったと証明できるはず。

それに……七海の彼が誰だったのかも判明するかもしれない。

チェリータルトを急いで食べ、会計を済ませると、私は七海の実家へ向かう事にした。



「柚乃ちゃん、いらっしゃい」

「すみません、お忙しいところ」


突然の訪問だったけれど、おばさんは嫌な顔ひとつせずに迎えてくれた。


「七海のパソコンを見たいって話だったから、ひとり暮らしの部屋から引き上げてきた荷物の中からノートパソコンを出して、繋いであるんだけど」

「ありがとうございます。……見てもいいですか?」

「どうぞ。七海の部屋に繋いであるから、好きなだけ見ていって?」


おばさんは二階の方を指さして、そう言った。