「もしかして、お客様……先日、うちのお店の取材をしてくださった出版社の方のお知り合いの方ですか?」

「……えっ?」

「そのノート。取材中に少し見せていただいたんです。当店のチェリーパイを食べて、企画名を思いつかれたとの事で。おかげで昨日の、雑誌を見たというお客様が当店にいらして、ありがたい事に大盛況です。もう、桐山さんには感謝しかありません」


嬉しそうにトレイを抱えながら語る店員さん。

七海への感謝まで述べていて、私まで嬉しくなってしまった。


「……でも、不思議なんですよ。インタビュアーの名前が桐山七海さんじゃなくて、別の方になっていて」


店員さんが不思議そうな表情で首を傾げている。

七海のフルネームまで覚えていてくれるなんて、そこまでちゃんと見てくれたんだ……。


「それに雑誌の発売日が決まったら、ご連絡をくださる事になっていたのですが……もしかして、桐山さん、体調でも崩されたのですか?」

「あ、いえ……はい」

「そうですか。またお会いできるのを楽しみにしていたんですけどね。……それに、新作のスイーツも桐山さんに召し上がっていただいてアドバイスをもらおうかなって、みんなで話してたんですよ」


お店のインタビューをしただけなのに、こんなにお店の人から信頼を得た七海って……。


「あ、あの……。どうしてそんなに七海の事を?名前もしっかり覚えているんですか……?」

「名刺をいただいたんです。あ、少々お待ちくださいね」


そう言って店員さんが一度、テーブルを離れていく。

名刺をいただいてるって……七海が名刺を渡していただなんて。

取材させてもらったし、雑誌に載せようとしているのだから、名刺を渡すのは当たり前といえば当たり前なのだろうけれど。


「すみません、お待たせいたしました。こちらです」


戻ってきた店員さんが、そう言って私に名刺を差し出した。

見せてくれた名刺は、七海と私が入社して名刺を支給され、お互い人生で初めての名刺交換をした時の名刺と同じ物だった。

スノーライツ出版 第一編集部 桐山七海

その文字がしっかりと名刺に刻まれているのを見て、涙が込み上げてきた。


「名刺交換をしたので、桐山さんも私の名刺を持っています。何かありましたらいつでもご連絡くださいとお伝えください」

「……ありがとうございます。この名刺、大事にしてください」

「もちろんです!チェリータルトだけでなく、他のスイーツもお褒め下さってありがとうございました。ぜひ今度は、桐山さんとご一緒にお越しくださいね」


ぜひ今度は、桐山さんとご一緒に……。