瞳の分の会計も済ませて、外へ出る。

さっきまで激しく降り続いていた雨は、すでにあがっていた。

傘をさす必要がなくなったので、ギュッと柄を力いっぱい握りしめて家に向かって歩き出す。

グッとお腹に力を入れ、唇をかみしめて涙が零れ落ちるのを我慢する。

瞳が話すのを聞いていて、自分の事だけど、よく泣かなかったなと感心してしまう。

自分の事じゃないけれど、七海が受けたショックの事を思うと、胸の奥底が痛くて痛くてたまらない。

いなくなった今でも、瞳のように七海を悪く言う人が社内にいるのだろうか。

おじさんやおばさんが悲しむ姿を目の前で何回も何回も見てきた。

そんな事、瞳は夢にも思わなかっただろう。

まるで、悪を成敗してきたように、得意気になって語っていた事が、本当に許せなかった。

七海がいなくなった事に、おそらく企画を盗んだ犯人の神崎マリエはホッとしている事だろう。

もう誰も、真相を追う者はいないと、安心しきっているに違いない。

だけど、証拠はUSBだけじゃなく、取材用のノートと……生きた証人として、私がいる。

雑誌が販売されてしまった以上、七海の記事に差し替える事は不可能だろうけれど、せめて社内での七海の名誉は回復させたい。

もう二度と、七海のような被害者を出さないためにも。


「弊社の恥……本当にね」


家の中に入ったとたん、瞳が言った事を呟き、膝から崩れ落ちた。

七海の努力を知りもせず、調べようともせず、嘲笑った事は許せない。

荷物を投げ出したとたん、バッグから雑誌が飛び出した。

七海の企画が掲載されたと思って、発売日を心待ちにしていたはずだった。


「こんなもの……っ!」


グシャグシャにするつもりで雑誌に手を伸ばした瞬間、スマホが鳴り響いた。

画面には、燈真君の名前が表示されている。

それを見たら、必死になってこらえていた私の中の何かが全て崩れ落ち、ストッパーが外れ涙が溢れ出す。

拳で床を殴りつけながら、その場に突っ伏して私は声をあげて泣き出した。