「あ、すみません。何か、めちゃめちゃひとりでしゃべっちゃいました。誰にも言わないでくださいね?弊社の恥だし」


瞳はそう言って、手を合わせてペロッと可愛く舌を出すと、またビーフシチューを口に運び始める。

……弊社の恥?

七海の事を恥だと言っているの?

習得した情報が多すぎる事と、予想もしていなかった出来事に、心のダメージはかなりひどかった。

瞳からしたら、自分の目で見た事全てが真実だと思うだろうし、それは仕方がないと思う。

でも、憧れていた先輩の無実を信じなかったのだろうか。

しかも、『弊社の恥』だと言う割にはどこか楽しそうだった。

誰一人として七海の無実を証明しようとする味方がいなかったのか、それを想像すると悲しくて悔しくて、たまらなかった。

それと同時に、雑誌に記載されていた『神崎マリエ』への怒りと憎悪がこみあげてくる。


「……瞳は、その、七海先輩って人の方が被害者だって、思わなかったの……?」

「思うわけないじゃないですか。だって、USBがないんですよ?しかもマリエ先輩のUSBを自分のだって言い張るし、見ていて幻滅しましたよ」

「その……USBも企画と一緒に盗まれた物だったとしたら……?」


私の声が震えている事に瞳は気付いていないだろう。

口元に人差し指を当てて、首を傾げて考え込んでいる。


「それなら、他の証拠を持ってくれば良くないですか?でも、七海先輩、それ以上何も言わなかったし。……そういえば、会社を辞めた後、お父さんが荷物の整理をしに来てましたよ。あれだけ騒いじゃったし、編集部だけじゃなくて、社内にも噂が広まってたら流石に合わせる顔ないですもんね」


瞳の言葉に胸にできた傷がどんどん抉られていくような感覚がした。

おじさんが出版社から引き上げてきた七海の私物は、本当に少なかった。

元々、持ち込んだ物が少なかったからと思っていたけれど、絶望を感じて要らない物を処分していたのかもしれない。

……でも、取材用に使っていたリングノートは処分されずに、おじさんが持って帰ってきた段ボール箱に入っていた。

あそこには『恋するスイーツ』企画に関する事が書かれてあったはず……。

あれがあれば、七海の名誉は回復できるかもしれない。

『恋するスイーツ』は、七海がプライベートの時間を削って、作り上げた物であって、私にとっても、七海との大事な思い出でもある。

それを横取りした挙句、七海に罪を被せた事は許せない。