だけど七海は大学の時からいつだって何かと私の事を褒めてくれたよ。

七海は人のいい所を見つけて褒めてくれる。

悪いところがあったらちゃんと指摘してくれて、貶す事はしない。

だからアルコールのせいじゃなくて、元々の七海の性格。

そんな七海の言葉で私は何度救われてきたか。


「……で?報告する事って何?」

「……えっ?」

「私、てっきりこの前の企画書ができあがったよーって話かと思ってたけど、違うの?」

「ああ、えっと、実は……ね」


なかなか始まらない今日のメインイベントを振ってみると、七海は急に恥ずかしそうにモゴモゴし始めた。

顔が少し赤いのはアルコールのせい……じゃないよね。


「えっと……実は、彼からプロポーズされて……結婚する事になりました……」

「ええっ!早く言ってよー!おめでとう!」


七海の報告に驚きながらも、嬉しくて私は思わず拍手をしてしまった。

大好きな彼とついに結婚かぁ……。


「そっかぁ。結婚しちゃうんだ。嬉しいけど、寂しくなるね」

「寂しいって何で?」

「こんな風に飲みに行ったりカフェ巡りしたりできなくなっちゃうんだなぁ……って」

「そんな事ないよ。確かに回数は減っちゃうかもしれないけど、行けるし行こうよ」

「流石にドリプリは行けないでしょ?」

「もちろん行くよ!」


グッと拳を作って力を入れて返す七海がおかしくて笑ってしまった。

そんなに力入れて返さなくてもいいのに。


「気が早いけど、ブーケは柚乃にあげるから、絶対に幸せになってね」

「受け取れないよー。さっき仕事が恋人みたいな話したばかりでしょー?」

「そんな事ないよ。出会いは急に!って事もあるじゃない?……あ、私の幼馴染を紹介しようか?」

「ええっ?!」

「優しくてお人好しで涙もろいところあるけど、何事にも一生懸命で、絶対に柚乃と合うと思ってたんだ。優良物件だと思わない?」

「物件って」


物件扱いする七海に笑ってしまった。

そんないい人がすぐそばにいるのに、七海は別の人との結婚を選ぶんだ。

幼馴染くんも七海を妹みたいだって思ってたみたいだから、やっぱり恋愛って理屈じゃないんだなって改めて思った。


「絶対お似合いだと思うんだよねー。いつか絶対に紹介するね」


七海の幼馴染くんなら、恋愛は別として会ってみたいかな。

普通に気が合いそうだし、友だちになれそう。


「楽しみにしてるね」

「うん、楽しみにしてて」


そう言って、笑い合って話してたのに。






その日の夜。

七海は風呂場で手首を切って、この世を去った。