これは、期待に応えられるように頑張らないといけないや。

苦笑いしながら私は、食べ終えたおにぎりのフィルムをクシャクシャと小さく丸めた。



退社時間になっても、降り続く雨の強さは弱まる事はなかった。

出勤時に濡れていた綾音先輩の上着の袖は乾いていたものの、また濡れるのかとぼやきながら羽織って、退社していった。

午後の業務も滞りなく終わり、帰る前に私は明日の打ち合わせの準備をしていた。

デスクに置かれた雑誌を見てため息をついてしまう。

田辺さんに連絡してみようかどうかまだ迷っていた。

気にするような事ではないのかもしれないけれど、七海は企画会議前からこの企画に相当力を入れていたわけだし、私は最後まで見届けるつもりだったから、余計に気になる。

……そもそも、企画会議で企画が通った事も七海は教えてくれなかった。

企画会議で何かあったって事?

私は雑誌をバッグにしまうと、デスク周りを整えて編集部を出た。

考えれば考えるほどモヤモヤがどんどん大きくなってくる。

帰ったらダメ元で田辺さんに連絡をしてみよう。

色々と頭の中がゴチャゴチャしていて、帰っても夕ご飯を作る気にはなれない。

会社のビルを出ると、ザーッと音をたてて降る強い雨を目の当たりにして盛大なため息をついてしまった。

今朝はお祝いしたい気分だったのに、今は天気と同じような泣きたい心境。

こういうのは今まで何度もあった。

でも、そんな時はいつだって七海が不快な気分を吹っ飛ばしてくれた。

飲みに行ったり、アルコール無しでご飯に行ったり、どっちかの家でDVD見ながら仕事に関係のない話をダラダラとしたり。

私って、こんなに七海に依存していたのかなと驚くくらい、事あるごとに七海の姿を思い出してしまう。

傘をさして雨の中、駅に向かって歩き出した。

電車に乗り、自宅のある最寄り駅で降りて、改札を出る。

いつものコーヒーショップで夕飯を食べようと、傘をさそうとした時だった。


「え、もしかして、柚乃先輩ですか?」

「……えっ?」


不意に隣にいた女の人に名前を呼ばれて、顔をあげた。

相手は、私を見て驚いた表情を浮かべている。

私は彼女を見て、すぐに誰なのかを思い出した。


「えっ?もしかして、(ひとみ)笹井(ささい)瞳?」

「そうです!わあ、柚乃先輩、お久しぶりです!」


私に名前を呼ばれて、彼女は嬉しそうに微笑んだ。