「あ……変な事を言って申し訳なかった。そっか、大事な友人だったんだな……」

「いえ、こちらこそ、すみません。……寛大なご配慮ありがとうございます」

「黒澤の友人の企画かー。どれどれ？」

「恋するスイーツ特集。辰巳君、スイーツ好き？」


雑誌を覗き込んだ辰巳さんに綾音さんが尋ねる。

辰巳さんは記事を見つめた後、顔を上げてアハハと笑った。


「いや、あんまり好きじゃないんだよな……」

「えー？めちゃめちゃおすすめのスイーツ知ってるのに？」

「あー……いや、それは、女性をターゲットにしている雑誌の編集部にいるなら、詳しくないとって思って……」


綾音さんにツッコまれて、明らかに焦ったように答える辰巳さん。

そっか。

苦手な物でも、仕事のためにそうやって自ら飛び込まなきゃいけない事もあるのか。

やっぱり私にはまだまだ勉強が足りないな。

就業開始のチャイムが鳴り響き、辰巳さんは自分のデスクへと向かった。

ちゃんと読めなかったので、また休憩時間にでも読むかと思いながら私も雑誌を閉じる。



午前中は大きなトラブルは起きず、作業が滞る事はなかったので、順調に進んだ。

昼休みを告げるチャイムが鳴り響き、私は座りながらグーッと腕を伸ばして大きく伸びをする。

入社当時は、チャイムが鳴るなんて学校みたいとか思ったけれど、作業に没頭してしまって休憩をとる事を忘れてしまう人が過去にかなりいたらしく、チャイム制度を導入したとか。

チャイムは始業時間の9時と昼休憩の１２時、退社時間の１７時に鳴るようになっている。

確かに合図があると、上司を気にせずにみんなが休憩したり退社したりできるのでありがたい。


「柚乃、今日は持参？」

「はい。雑誌を買ったついでにコンビニで買いました。これからラウンジで雑誌を見ながら食べようかなと」

「私も持参だから一緒に雑誌見てもいい？」


ラウンジに行こうと立ち上がったとたん、綾音先輩に声をかけられた。

脇に抱えていた雑誌を指さしながら綾音先輩が言う。


「もちろんです。ご一緒しましょう」

「ありがとう」


綾音先輩にはこの前、七海の事を話してから、ずっと気にかけてもらっていた。