電車を待つ列に並んでいたら、降り出した雨がさっきよりも強くなる。

せっかく七海のお祝いの日なのに、こんな天気は嫌だなと思いながら、ホームに入ってきた電車に乗り込んだ。



「おはよう。雨が降るって言ってたけど、何もこんなに降る事なくない?」

「おはようございます。大変でしたね」


ため息をつきながら編集部に入ってきた綾音先輩は上着がかなり濡れていた。

愚痴を言いながら上着を脱いでハンガーにかける。


「柚乃は雨にあわなかったの?」

「はい。電車を待っていたら結構降ってきましたけど、駅から会社までもセーフでした」

「いいなー。私なんて、傘をさしてたのにこんなに濡れちゃったよ」

「かなり降ってます?」

「これでもかってくらい。……とりあえず外部との打ち合わせが入ってなくて良かった」


綾音先輩は、手帳を開いてスケジュールを確認し、ホッとしたように座る。

そして、デスクに広げていた私の雑誌を指さした。


「朝から他社の雑誌見て、勉強中?」

「いえ、違うんです。実は、今日発売のこの雑誌に七海が企画した物が掲載されてて……」

「そうなの?へえ、どれどれ?」


就業前だからいいかと思って、自分のデスクで他社の雑誌を広げて見ていた事を咎められるかと思ったけど、違った。

綾音先輩は興味津々で、雑誌を覗き込んでくる。


「……恋するスイーツ特集?ああ、SNSで流れてきてたけど、これ、七海ちゃん企画の物だったんだ?」

「そうなんですよ。実は、七海の取材に私も同行して、一緒にスイーツ巡りしたんです」

「ちょっとー、それじゃライバル誌の手伝いをした事になるじゃない」

「あ、いえ、そんなつもりは……」

「冗談よ、冗談。でも、柚乃も勉強になった?」

「もちろんです!ただ、食べただけじゃないですよ」


私の返答に、綾音先輩が笑い出す。