あの日、見てしまった燈真君の表情が気になっていたけれど、彼は以前よりも連絡をくれる事が多くなった。

特に用事があるわけではないけれど、時間がある時には長電話をしてバカみたいに笑い合う事も。

国民的アイドルとしての彼の姿からは想像できないほど、身近にいる普通の男の人と変わりなくて、昔からの友だちのように飾らずに接する事ができて、居心地がいい。


「そういえば、七海が企画会議に出してた企画が通ってたみたいで、それが掲載された雑誌がもうすぐ発売なんだよね」

『そうなんだ?』

「うん。一緒にスイーツ巡りをして、その時からかなり気合が入ってたから、発売が楽しみなんだ。……本当は企画が通った時にお祝いをしたかったんだけど、知る前に亡くなってしまったから、発売されたら七海の家に持っていこうかと思って」

『そっか。七海、すごく喜ぶと思う。俺もチェックしとくから、媒体名教えて?』


燈真君に聞かれて、私はスノーライツ出版の七海が担当している雑誌名を告げる。


『ありがとう。おじさんもおばさんも喜んでくれると思うよ。俺はスケジュール的に行くのは無理だから、雑誌をチェックしたら柚乃ちゃんに連絡するよ。じゃあ、そろそろ、おやすみ』

「おやすみなさい……」


通話終了のボタンをタップして、私はスマホを置く。

通話を終えてから改めて、毎回思う事がある。

国民的アイドルの青柳燈真から、告白されたのは夢だったんじゃないかと。

燈真君なら仕事上、綺麗な女優とかスタイルの良いモデルとか、一般人の私なんかよりふさわしい人がいっぱいいるのに。

決して浮かれているわけではない。

ただ、不思議に思えてならないだけ。

もちろん実感もわいていないけれど。

とりあえず、燈真君の事は一旦置いておくことにして……明日はいよいよ、待ちに待った雑誌の発売日。

ライバル誌とはいえ、七海の担当した企画が掲載される雑誌を見るのは本当に楽しみだ。

いつもは絶対に思わないくらい、朝が来るのを待ち遠しく思いながら、私は眠りについた。


いつもよりずっとずっと早い時間にアラームをセットしておいたが、アラームが鳴るよりも先に目が覚めた。

ダラダラと準備をするわけでもなく、むしろテキパキと動いている自分に驚いたくらい。

駅前の大きなコンビニに並んでいるかもしれないと思い、早めに出ようと、忘れ物がないか確認をして家を出た。

あいにく、今にも降り出しそうなどんよりとした灰色の空で、私の気持ちとは裏腹な物だった。

いくら大きなコンビニでも、書店と比べたら置いてある数はそう多くはないし、置かないところもある。

はやる気持ちを抑えながら、私はコンビニに入り雑誌コーナーに目的の雑誌があるのを見つけ、雑誌を手に取った。

ラスト一冊だったのか、最初から一冊しかなかったのかわからないが、とにかく私が最後の一冊のようだ。

コンビニに来たついでに、今日の昼食用としておにぎりを二つとペットボトルのお茶を手にして、レジへ行く。

購入し、コンビニを出ると灰色の空からポツポツと雨が降り出していた。

傘をさす間もなく、私は駅の改札を抜けて、いつもの電車に乗るためにホームへ上がった。