少し前までコルクボードに貼ってあったのだろうか。

写真が傷むから外したのかもしれないな。

そう思いながら、写真を卒業アルバムに挟み、ケースに入れて本棚に戻した。


「さて、そろそろ行くか」

「あ、仕事?」

「今日はオフ。……七海のとこ、行こう」


そう言って燈真君は立ち上がる。

確かに、これ以上ここにいても何も得られないし、かなり長い時間滞在してしまった。

おじさんも待っていると思うし、そろそろ引き上げないと。


「……柚乃ちゃん」

「何?」


先に部屋を出ようとした燈真君がドアを開けようとして、何かを思い出したのかこちらを振り返る。


「……これから先の月命日、一緒に七海のところに行かない?」

「私と?え、燈真君、忙しいのに毎月来れるの?」

「……できるだけ行くようにする」

「別にいいけど……?」


不思議に思いながらも頷きながら私は答えた。

でも、自分と同じ気持ちで七海の月命日を迎えてくれる『同士』がいてくれる事が、素直に嬉しかった。

決して七海を救えなかった罪悪感が消えたわけではない。

二人で七海の部屋を後にして、一階に降りる。

リビングに入ると、おじさんがすでに帰ってきていて私たちに気付いてソファから立ち上がった。


「すみません、長居してしまって」

「いいのよ。……どう?何かわかった?」


私が言うと、おばさんが笑顔で返してくれる。


「あー、はい。……青柳燈真君が、芸名だったって初めて知りました」

「あら、知らなかったの?」

「おじさんもおばさんも、とうま君って言うから気付かなかったです」

「燈真君も意地悪だねー。柚乃ちゃんに話してるかと思ってたよ」

「あはは。おかげで、変な嫌疑かけられちゃいました。ミステリー小説みたいで面白かったですけどね」


悪びれる様子もなく燈真君が答えている。

しなくてもいい焦りと恐怖をしてしまったんだから、少しは申し訳なく思ってほしいんだけど!


「じゃあ、そろそろ行こうか」

「あ、おじさん。俺が連れて行くから、大丈夫」


立ち上がったおじさんを制止する燈真君。

驚いて思わず彼の方を振り返ってしまった。


「え、大丈夫かい?」

「大丈夫。ちゃんと責任持って、柚乃ちゃんの事、家まで送るから」

「いえ、あの、そんなのは……」


国民的アイドルに車の運転をさせて、家まで送らせるなんて、とんでもない。

慌てて断ろうとしたけれど、燈真君が笑った。


「もう、一度送ってるんだから、一緒だよ」

「いや、でも……」


とはいうものの、すでに断れない雰囲気になってしまっている。

とりあえず今回は、お言葉に甘えて送ってもらう事にした。

次回は絶対に断ろうと思う。


「おばさん、長い時間ありがとうございました。またお邪魔しても大丈夫ですか?」

「柚乃ちゃんなら大歓迎よ。来てくれたら七海も喜ぶから、無理しない範囲で気にしないで遊びに来てね」

「ありがとうございます」