その反動で、涙がポロポロと零れだす。


「えっ?!ちょ、ちょっと!本当にゴメンって……」

「最悪……」


別に泣くつもりなんか微塵もなかったのに、自分の意志とは関係なく涙は止まらない。

自分で思っていた以上に緊張をしていたのだろう。

だけど、目の前の男は謝りながらずっと笑ってるし。


「ゴメンって言いながら笑ってるの最悪なんだけど!」

「いや、だって、嬉しくて……」

「嬉しい?人が泣いてるのにどういう意味?!」

「だって、柚乃ちゃん、俺に対していつの間にか敬語が抜けてるから」

「……人なんて極限状態になると、そんな事気にしてる場合じゃなくなるって、よーくわかりました!」


全く気が付かなかったけれど、確かに私はさっきから青柳さん相手に敬語で話していない。

人が怒りとか恐怖とか混乱とか……いろいろな感情が渦巻いている時に、この人は……。


「もう敬語使わないから」

「最初からそれでいいって言ってるし。ついでに、青柳さんもやめてね?……ああ、青柳は母親の旧姓で、燈真って漢字は七海が提案してくれた物なんだよね」

「え、七海が……?」


七海が、青柳燈真というアイドルのルーツに関わっていたなんて。


「……そっか、七海が」

「だから、大学に入って初めてできた親友がまさかの俺推しで、七海は本当に喜んでた。まあ、最初はあまりに偶然が重なりすぎて疑心暗鬼になってたみたいだけど」

「私だって……まさか、初対面とこんなに気が合う事があるんだって思わなかったから、嬉しくて。……ついついがっついちゃったんだよね」

「おかげで七海に親友ができたんだから、俺としても本当に嬉しかったよ。……ずっと七海の親友に会ってみたいと思ってた」


そう言いながら私を見つめる青柳さんの顔に笑顔はなかった。

開きっぱなしの卒業アルバムを閉じて、ケースに入れて本棚に戻す。


「高校の時も親友って呼べる存在はいたみたいだけど、あんまり話は聞かなかったから。大学に入って七海が毎日のように柚乃ちゃんの話をするから、相当大事な存在だったんだろうなって」

「……そんな風に大事に思ってもらえた事は本当に嬉しい。……でも」


私は……七海からの最期のメッセージに気付かなかった。

その事を目の前の彼に話したら、きっと罵倒されるだろう。

おじさんもおばさんも、時間的に間に合わなかったと言ってはくれたけれど、青柳さんに打ち明けるのは怖い。