青柳さんと同じ話を、さっきおばさんからも聞いていた。

七海は地元に対しての嫌悪感がずっとずっとあった。


「俺は七海がもう二度と傷つかないように、誰にも負けるかって必死に努力した。体力作りをして、少食ながらもできるだけ食べるようにして。おかげでガリガリじゃなくなったし、顔色も良くなってさ。背も伸びたおかげで、街中でここの奴らと会ってもわかんないだろうなってくらいの見た目になったんだよな。眼鏡も相応の物に変えたし。んで、ある日今の事務所の人にスカウトされて、入所になったってわけよ」


白鳥少年は想像を絶する以上の努力をして、青柳燈真として今の地位を築き上げる事に成功した。


「……正直、いじめられた過去があるがあるから、今の俺がいるって事は事実なんだけど、そもそも七海がいなければとっくに俺は終わってただろうし、もう俺は存在していなかったと思う。聞く人によれば、辛い過去があって乗り越えたから今の俺がいるんだって、美談にする奴がいるかもしれないけど……話をこれから先、どっかで話す事もないだろうし、絶対に美談にはしない。白鳥透真が青柳燈真だって、ここの奴らは夢にも思わないだろうし、何かの拍子で知って、馴れ馴れしく同級生面してきても、誰ひとりとして許さない。奴らは忘れてるだろうけど、俺と七海がやられた事を俺は忘れてない。できる事なら、この世から抹殺したいくらい」


七海だけでなく、青柳さんもこの地元への嫌悪感は相当な物だった。

何かを言わなければとも思うが、適切な言葉が見つからず、私は黙り込んだ。

七海と青柳さんは幼馴染以上の絆で結ばれているのは理解した。

七海の幼馴染の成りすましじゃないかって、散々疑ってしまったから、謝らないと……。


「……あの、ごめんなさい」

「ん?何が?」

「七海の幼馴染じゃないんじゃないかって、散々疑って、ひどい事を言っちゃって……」

「別に気にしてない。俺も柚乃ちゃんに言わなかったし、アルバム見た?って、悪ノリして言っちゃったから」


申し訳なく思って謝ったのに、青柳さんはケラケラと可笑しそうに笑った。

今まで神妙な顔つきで、まじめな話をしていたというのに……!


「ちょっと!殺されるかと思って、めちゃめちゃ怖かったんだからっ!」

「ごめんって。柚乃ちゃんの想像力があまりにも豊かすぎて、こっちが驚いたんだけど。……あ、出版社勤務ならいつか、俺主演でミステリーとかサスペンスの話を書いてよ」

「私はファッション誌専門だし……それに、出版社に勤めているからってみんなが小説を書けるかっていうわけじゃないし!」


今まで気を張っていたけれど、急にプツリと緊張の糸が切れた。