さっきまであった恐怖が嘘のように、興奮して大きな声が出てしまった。

だって、本当に許せないと思ったから。

相手が最愛の推しであろうと、何であろうともう関係ない。

七海の辛かった過去を利用しようとするなんて……。


「……ハハッ」


私の怒りなど、この男には伝わっていないようだった。

乾いたような笑いが起き、私は彼を睨み上げる。


「柚乃ちゃんの想いはわかった。……けど、とりあえず落ち着いて俺の話を聞いてくれない?」

「何?この期に及んでまだ騙り続けようとするの?」

「だから……一旦、七海の幼馴染を騙ってるっていうのは置いといてよ」


そう言って、青柳さんはかけていたブルーのサングラスを外した。

濁りの無い澄んだ瞳が真っ直ぐに私を捕らえる。

そして、私の抱えている卒業アルバムを指さした。


「七海のいる3組に俺もいるよ」

「……えっ?」

「……青柳燈真って名前ではないけどな」


そう言って私の手から卒業アルバムを取り上げ、ページをめくる。

眉間にしわを寄せて、少し険しい表情をしているけれど、どこか懐かしそうな物でもあり、悲しそうでもあった。

七海のいる3組のページを開いたまま、彼は私にアルバムを差し出す。


「実は、青柳燈真って芸名なんだよね。別に隠す事もないかなとは思ってるけど、特段、芸名だって公表しなきゃいけない理由もないから、知ってる人は知ってるけれど、大半は知らないと思う。……これが俺ね」


ドリプリのファンになって結構長いけれど、青柳燈真が芸名だというのは全く知らなかった。

彼はひとりの個人写真を指さしながらそう告げた。


「……えっ?」

「めっちゃ驚くじゃん。……まあ、仕方ないかもしれないけれど」


彼が指さしていた写真の男の子は、失礼ながら、国民的アイドルである青柳燈真君の幼少期とは思えないほど、全く想像できなかった姿だった。

名前は白鳥透真(しらとりとうま)と表記されている。

彼は、写真写りが悪いせいもあるのか、顔色があまりよくない。

顔色が悪いせいで、変に大きめの黒縁眼鏡が目立っている。

集合写真を見てみると、端の方に写っている七海の隣に彼の姿はあった。

当時の七海より背が低く、またかなりの瘦せ型で、かなりよく見ないと見落としそうなくらい影が薄そうな印象を受けた。