「いっその事、一緒に住んじゃう?もう少し広いとこ借りて、ルームシェア」

「すごく楽しそう!……でも、ルームシェアしたら、彼氏できないよ?」

「そんな事ないでしょ。部屋に呼ばなきゃいいんだし」

「私は彼氏ができる心配はないけど、七海は絶対彼氏できるし、きっとずっと一緒にいたくなるよ?」

「うーん。確かに言われてみれば、ずっと一緒にいたくなるかも」


在学中、七海に彼氏がいた事はなかった。

好きな人がいたという話も全くなかったし。

異性の話といえば、大抵ドリプリについてだった。

それと時々、幼馴染の男の子の話が出てきたくらい。

男の子の幼馴染がいるなんて、マンガみたいな展開はなかったのかなってドキドキしたけれど、七海は兄弟としか思えなかったらしい。

どうやら幼馴染の方も七海を妹みたいな感覚としか見てないよっていつも言っていたけれど。

近すぎるとそんな風になっちゃうのかなって、思ってた。



そして、社会人になって三年目。

私は月の光出版社で、七海の所属するスノーライツ出版社とはライバル会社だったけれど、相変わらず仲が良くて。

週末はどちらかの用が入っていない限りは、飲みに行っていた。


「それでね、彼氏がね」

「また彼氏の話~?大好きなんだね」


大学の時と違うのは、話題の中に七海の彼氏が出るようになった事。

大学を卒業してからできたらしく、七海が話すたびに今まで見た事がない、可愛い表情を見せるので、本当にその彼の事が好きなんだなって、聞いている私まで幸せな気持ちになった。

それで今日は七海が報告する事があるという事で、いつもの通り彼氏の話から始まり、恋愛話で盛り上がっていた。


「柚乃の恋バナも聞きたいんだけどなー」

「無理無理。雑誌でイケメンばっかり見てるから、なかなかリアルに恋ができない」

「うわー、わかるかも!もう職業病だね」

「そう思う」

「労災下りて欲しいよね!」

「確かに」


七海が笑いながら冗談を言い、私も頷きながらグラスのカシスオレンジを飲み干す。

私がいる部署はファッション雑誌を担当しているところ。

女子力がかなり追求される部署なんじゃないかって、配属された時に不安しかなかった。

でも、同じ部署の人たちはみんな優しくて、特に私の教育係としてついてくれた先輩の綾音さんは一から私を育ててくれた。

優しさの中にも厳しさはあったけれど、それは理不尽なものでなく、しっかりと独り立ちできるような教え方で、不安しかなかった私にとって、弱音を一度も吐かずに乗り切れた一年目だった。

三年目となった今年からは、企画を少しずつ任されるようになって、毎日やりがいのある生活を送る事ができている。

ただ、さっきも言ったように、ファッション誌には旬の芸能人を載せる事もあり、何度か撮影にもお邪魔して、実際に芸能人を目の当たりにしているせいなのか、恋愛が後回しになっている状況でもある。