私が言うと、フフフッと七海が笑う。


「だって、恋って甘酸っぱいって言うじゃない?このチェリーパイも甘酸っぱいし、毎日食べても飽きないし、なんか恋愛と似てるなーって思ったら……ね?」

「まだ一軒目だよ?これから行く予定のお店が全部甘酸っぱいわけじゃなくない?」

「柚乃ー。恋愛っていうのは、甘酸っぱいだけじゃないよ?激甘だったり、ほろ苦かったり……時にスパイシーだったり?」

「恋愛がスパイシーって……何?!」


七海の言葉に私は思わず、笑いながら突っ込んでしまった。

刺激的な恋って言いたかったのかわからないけれど、言葉のチョイスに笑いが止まらなかった。

本当に次から次へと、私には思いつかないワードが出てくるから、七海にはいつも驚かされる。


「企画通ったらお祝い行こうね」

「ありがと。もちろん、雑誌が発売されてもお祝いよろしくね!」

「もちろんだよ!……スパイシーなスイーツで乾杯する?」

「めちゃめちゃ気に入ってるし!じゃあ、スパイシーなスイーツ探さないとだね!」


そう言って笑い合ったのは、最近の事なのに。

周りから見たらくだらないやり取りに思えるだろうけれど、私と七海にとっては本当にバカみたいに笑った大切な出来事だった。

結局、企画が通ったお祝いも、雑誌が発売されたお祝いもできなかった。

発売は来月の頭みたいだし、発売されたら七海の仏壇に供えにいこうかな。


「お待たせいたしました。モーニングセットBと紅茶でございます」


注文したモーニングセットが運ばれてきて私はスマホを閉じ、テーブルに置く。


「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」


店員さんは笑顔で会釈をして、持ち場に戻っていく。

その光景が七海と一緒にスイーツ巡りをした日に訪れたカフェで見た店員さんの姿と重なり、胸が痛くなる。

紅茶に砂糖とミルクを入れて、カチャカチャとスプーンでかき混ぜる。

マーブル状に広がるミルクを見ながら、そっと涙が零れ落ちた。



青柳さんとの通話から一週間後。

月命日を迎え、私は午前中から七海の家に来ていた。

四十九日を迎えて、納骨は無事に済んだようだった。


「四十九日は顔出せなくてすみませんでした」

「そんな、いいのよ。今日だって忙しいのに来てくれてありがとうね。時間があればお墓の方も顔出してあげて?」

「もちろんです。おじさんが後で案内してくれるそうなので、行ってきます」


おばさんが私の前にティーカップを置きながらそう言ってくれた。

顔色はあまり良くないけれど、七海が亡くなった直後よりかはマシになっているかもしれない。

ただ、気丈に振舞っている事は変わりないので、あまりおばさんに負担をかけないよう、私が動けるところは代わりに動いていきたい。